プロローグ
私が彼と初めて出会ったのは3年前の事でした。
ちょうど、今日のような天気の良い爽やかな陽気の初夏のことでした。
出会いは最悪でした。
森の奥、妖精の結界をくぐった先、森を司る妖精達の住処に彼はいました。
普通の人間では、まず入れないであろうそこに。
彼はそこで妖精達を追い掛け回していました。
もの凄い笑顔で。
全裸で。
思わず魔法で攻撃してしまった私は悪くないと思います。
いえ、絶対悪くなかったです。
まぁ、妖精達とは単純に遊んでいただけだと分かり、誤解もすぐに解けたのですが、どう考えても変態にしか見えなかったですし、その・・・アレが・・・アレが・・・その・・・すごいブラブラしてましたし・・・
しばらくはその映像が頭から離れなくて、そのブラブラで変な催眠術的な、呪い的なものを受けたのではと本気で心配したものです。
そんな最低な出会いを経て、彼は私が住む村にしばらくは住む事になりました。
なぜなら彼は、異世界人だったからです。
しかもどうやらどこかの国に召喚されたのではなく、事故的に召喚されてしまったようなのです。
転移者とでも言うべきでしょうか。
彼のような例は過去にもいくつかあったようですが、私が住むマシガルツ王国には事故的にやってきてしまった召喚者や転生者を保護する法律はなかったため、とりあえず彼は私が住む村の村長さんの家に居候することになりました。
一応私は、自分が所属する魔術師ギルドを通して王国に『異世界人を保護した』と報告はしておきましたが、その後、特には指示はありませんでした。
彼は村の農業を手伝いながら、この世界の事を学んでいきました。歴史、文化、習慣、文字・・・
文字はそれなりに読めるようにはなりましたが、その他の事については・・・微妙です・・・
そして、彼はあっという間に村の一員になりました。
特に子ども達には人気があり、農作業と勉強以外の時はほとんど子ども達と遊んでいたのではないでしょうか?
私が村に慣れるまで一年以上はかかったというのに・・・
そしてこの3年、ほんっっっと色んな事がありました。
何度も死にそうになる場面もありました。
主に、私がですが。
彼はほとんど・・・
いえ、やめましょう。
ここで愚痴っても仕方ないですしね。
とりあえず言えるのは、のんびり村で魔術師生活を楽しむ予定だったはずの私が彼と出会ってから、やたらと色々な目に合う回数が増えてしまったのです。
「いやいや、俺のせいじゃないだろ」
きっと彼はそう言うでしょうけどね。
彼のせいではないかもしれませんが、彼と出会ってしまってから私の人生が良くも悪くも動き出してしまったのは事実だと思います。
そして今現在、現在進行形で私の目の前に、今まさに、またそんな場面が絶賛広がっている状態です。
目の前には10万の敵兵。
そして私達2人・・・
絶体絶命です。
絶体絶命ですが、アホの彼は突っ込む気でいます。
私的には死んだ師匠があの世から手を振っている様な気がします。
ましてや伝説の武器や鎧があるわけでもありません。
彼ときたら村人達が着るようなただの服に、旅用のマントを羽織っただけの、「ちょっとそこまで」装備です。
ただちょっと普通と違う事があるとすれば、彼の服の左胸に男の子が着るには不似合いな花の刺繍がしてあることぐらいでしょうか。
もう私には分かりません。
なぜこんな状態になってしまったのか・・・
これからどうなってしまうのか・・・
でもきっと彼は特に深くも考えないでこの場にいるのでしょう。
私の気持ちなんて全く知らないで!
彼はその刺繍の上にそっと右手を置くと敵を睨んだまま呟きました。
「じゃあ行って来るよ。アンは魔法で隠れてればいい」
「ちょ、ユウスケ君!いくらなんでもこの数は!せめて軍が来るまで・・・!」
ユウスケ君はすでに走り出していました。
私の話しなんか聞いちゃいません。
「もう!待ってくださいユウスケ君!!」
私は後を追って走りながら魔法言語を呟き、ユウスケ君を援護できるよう魔法を準備します。
こうなったらもうユウスケ君は止まりません。
ユウスケ君の体から赤い光が溢れ出しました。
見慣れているユウスケ君の魔力。
場違いではありますがいつ見ても思ってしまいます、「綺麗」だと・・・
きっとユウスケ君は気付いていないんでしょうね。
めんどくさがりのユウスケ君が、後の歴史に語られるであろう戦いに参加してしまっている事を。
そして、きっと無事に生き残ってしまうユウスケ君の名前は、大陸中に知れ渡ってしまうであろう事を。
そして・・・その後の後始末はきっと私がする羽目に・・・はぁ・・・
私の遥か先を走るユウスケ君が敵の先鋒に突っ込みます。
「うおぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
ユウスケ君の声が敵陣に響き渡りました。