表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇や百合ではありません  作者: 小林 あきら
第一章 薔薇や百合ではありません
8/48

1-7


 結局朝まであまり眠れなかった。

 いやあまりではなく、ベッドの中でも色々と考えてしまい、完徹してしまった。


「嗚呼……やっぱり……この美しい顔に……目の下にクマがぁ……」


 鏡で自分の顔を見て嘆く。

 寝不足のせいか言動がややおかしい気もするが、そんな事より、今はこのクマを隠す努力をしなければなるまい。

 顔を洗った後に化粧水と乳液で肌を整えて、ポーチからコンシーラーとファンデーションを取り出す。

 気になる所にコンシーラーをチューブから適量を取りだし、気になる所へ塗っていく。


「ぬりぬりっと」


 次に、パウダーファンデーションを手に持ち、鏡を見ながら、抑える様に塗る。


「ぱふぱふっと」


 そして、血色が悪そうな顔全体に濃くならない様に滑らせる。

 すると――


「なんという事でしょう!あれほど目立っていたクマが、綺麗さっぱり消えたではありませんか!おかえり、美しい私!」


 朝から鏡の前で、独りビフォーアフターをする私。

 やはり疲れが思考を汚染し始めたのか、両手を広げ、自分に称賛の言葉をついつい口走ってしまう。


「ふぅ〜……馬鹿な事をやってないで、学園に行こうっと」




 誰が見ても完璧で美しい私は、いつもの様に学園への通学路を歩く。

 しかし、こんな日に限って、皆から注目を集めてしまう。

 まぁ、そうだろう。そうだろうとも!

 いつもはメイクなどしなくてもいいぐらい綺麗な肌と艶なのだ。

 ここに化粧なんてしたら、それはもう控え目に言って、いつもより二割増しぐらいで美しいだろうよ。


 嗚呼、なんて罪作りなのだろうか?

 本当、美しいって罪だな。

 七つの大罪の罪の更新を、然るべき機関に申請すべきかもしれない。


 そんなくだらない事思いながら、頬に手を当て物思いに耽っていると、昨日と同じように、後ろから気の抜けた声がする。


「ゆ〜〜〜う〜〜〜待ってよ〜〜〜」


 昨日ならず今日までも、我が愛しの楓ちゃんを置いて寮を出てしまった。

 どうやら、相当眠気でやられているのだろう。


「楓、ごめんね?」

「本当だよ!今日も待ってくれないなんて!酷いよ!」


 頬をプゥと膨らまして怒る楓。

 いつもならここで爽やかに笑いつつ、楓をベタ褒めするのだが……今日は私を見てほしい。


 そう!この綺麗な!私をねっ!


「うふふ。どう?楓?ちょっと今日は気合入れて見たんだけど……」

「あれ?今日の悠、確かに綺麗だけど……なんか変だね?」

「え!?……へ、変!?」


 心外だ。この美しい顔が変……だと!?

 これはもしや、喧嘩を売られているのだろうか?

 いやいや、楓に限ってそんな事はない筈だ。

 だが、これはいくら超絶可愛い私のアイドル楓ちゃんといえど、理由によっては出るとこに出なければなるまい。


「う〜ん……何か無理やり隠している感じ?」

「……楓は本当に凄いね」


 それはその通りなので、否定できない。

 ここは先程の発言に対して罰を与えるのではなく、素直に楓を褒め称え『二神悠検定』の一級をあげたい。

 そして、ゆくゆくは段への昇格試験を受けてもらい『悠ソムリエ』の称号を是非とも獲得して頂きたい。


「ふふふ、流石楓だね!」

「え?えへ!えへへっ!」

「今日も張り切って学園に行きましょう」

「うん!」


 そんな楓の笑顔を見つつ、学園へと向かう。

 こんな普通の日常が続きますようにと願いながら……




 学園の自分の席で眠気にウトウトしながら待っていると、今日も今日とていつもと変わらず、始業の鐘ギリギリに教室へ涼さんが入ってくる。


「ほいほい、諸君おはようさん!んじゃ、出席取るぞ〜、朝倉」

「はい!」


 いつもの様に何の問題も無く出席も取り終わり「今日こそは授業関係の事を話すのかな?」と思いつつ眺めていると、どうやら今日は違うらしい。


「ふふふっ。さて、もう誰かから聞いている奴や、会っている奴もいると思うが……なんと!今日はお前らの待ちかねた、転・校・生だ!はい!リアクション、ドン!」


 涼さんが僕達に向けて大げさに手をバサッと薙ぎ払う。

 すると、級友達が訓練された犬の如く吠える。


「おおおおおおお!」

「先生!美少女ですよね?」

「ひゃっはー!ひゃっはー!」

「馬鹿がっ!ここはショタ系の美少年と相場がだな――」

「先生!それはつまりエロい展開が――」

「はいはい、リアクション終了!静粛に!」


 涼さんが騒ぐ級友達を、両手をパンパンと叩いて鎮める。

 どうも、ここでこういう態度を取るのが『お約束』というらしい。

 皆もそれを分かってやっている。


 なんて調教され……ではなく、ノリの良いクラスメイト達だろう。


「おーし、流石お前らだ。場も温まったし、じゃあ、葵君入って〜」


 涼さんの言葉の後、前の教室の扉が開き入ってくる美少年。

 級友たちはその美しい容姿に息を呑む。

 教卓の涼さんの横に並び、皆の視線に照れたように微笑む。


「みなさんはじめまして。僕の名前は(あおい)=フォン=アインスブルクと申します。この容姿と名前から分かって頂けるかもしれませんが、僕は外国の人間でもありますが、四分の一はこの日本の方と同じ血が流れております。所謂クォーターですね」

「うおおおお!なんかカッケぇな!クォーター」

「ああ!良く分からないが、スゲぇな!クォーター」


 美少年の言葉に、その容姿に級友達は興奮する。

 というか、なんか分からなくないだろ?

 今説明したよな?クォーターって言いたいだけだよな?

 私は心のツッコミを、顔を振る事で思考の奥へと追いやる。


 いや、そんなことより……この人って……そうだよな?


「ほれ、静かに聞け!葵君が喋れんだろ!」

「ふふ、ありがとうございます。名字では呼びにくいと思いますので、気軽に『葵』とお呼び下さい。では、これから至らぬところもありますが、仲良くして頂けると幸いです」


 そう言い、彼は胸に手を当てて軽くお辞儀した。

 これはクアルト風の紳士のお辞儀だ。


「ほぉぅ」


 近くの級友は目をハートマークにして、美少年を見つめる。

 確かにカッコイイ。認めよう、彼は美少年だ。

 普通の女の子なら、惚れてもおかしくはないだろう。


 そんな事を思いながら、彼に視線を戻すと目が合ってしまった。


「あっ」

「あっ」


 葵君も私の存在に気が付いたのか、目が合った瞬間、二人同時に固まった。

 そして、私の顔が熱くなる。

 彼から目が離せない。

 息が苦しくなって急に目眩がする。

 なぜだか胸が締め付けられる。


 ――だが、そうじゃないだろう?


 昨日確認しただろ?これは吊り橋効果によるものだって。

 しかし、吊り橋効果とはこんなにも、この変な感情が続いてしまうものなのだろうか?

 こんなにも、この気持ちが大きくなるものなのだろうか?

 ああ、どうしてこの様な気持ちになるのだろう?

 間違っている。ありえない。ありえてはならないのだ!


 これじゃあ……これじゃまるで、恋する乙女ではないか!


 昨日事故から命を救ってくれた相手が転校生として表れる。

 なんてベタな展開だ。

 現代の漫画やドラマなら、ベタ過ぎてこのような展開はもう使われないだろう。


 だが、普通の女の子なら、泣いて喜ぶシチュエーションなのかもしれない。

 夢見る乙女なら、そのまま結婚して、その後の人生設計まで想像するシチュエーションなのかもしれない。


 しかし、私はそこら辺の女子とは違う。

 悪い意味ではなく、本当に一線を画すのだ。



 ここで、約束していた通り秘密を明かそう。




 なぜなら、私は――いや、僕は男なのだから。





次の投稿は明日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ