1-1.お姫様といえば聞こえはいいが……side悠
「え〜っと、今日は始業式だけだから、荷物はこれだけだよね。あっ、最後にチェックしないと……うんうん、今日も美人!」
私は前髪を少しいじりながら、鏡に映る笑顔の大和撫子に向けて、今日も今日とて称賛の言葉を贈る。
鏡に映る自分の姿――黒く長い綺麗な髪、整った顔、すらっと伸びた手足、くびれの出来た腰、そして、つつましくも制服を押し上げる胸――はパーフェクトだ。
男女関係なく、恋に落ちても仕方ない程の美人だと自負している。
美しいとは罪だ。きっと、ロリコンと並び立つほどの罪であろう。
「嗚呼、本当に……美人だ……」
鏡に映る私が、先程とは違い少し暗い顔になる。
「おっと、ダメだ。今日も美人で頑張るぞー!」
両手をぐっと握り気合を入れ直して、今日もいい日になるようにと、これでもかと願いを込めて、自室を出た。
*****
ここは通称『クアルト』と呼ばれる街。
昔々、四宮銀次郎と呼ばれる、世界でも屈指の超々お金持ちがいたそうだ。
ここはその大富豪が金に物を言わせて、日本のある田舎の山奥の広大な土地を買い取り、これでもかと、莫大な財産を使用して造られた街だ。
つまり、ここ『クアルト』は、その銀次郎氏の持ち物で、銀次郎氏の街だ。
まぁ、昔々と言いつつも、今でもその銀次郎氏は生きており、未だに元気でぶっ飛んだファンキーな爺さんなので、厄介な事この上ない。
では、そのクアルトの街だが、外界を隔てる大きな石壁、その中の街は時代から取り残されたかのような、中世ヨーロッパ風の街並みがある。
ここで『〜風』と何か逃げにも等しい表現だが、実際に銀次郎氏が考えた中世ヨーロッパなので、正確な中世ヨーロッパと異なるものであり、中世ヨーロッパでない事は否定できない。
この街は銀次郎氏の考えた中世ヨーロッパ風の雰囲気を出す為に、コンクリートで舗装された道ではなく、石畳の道となっている。
更に現代の自動車なんて通ったら、世界観が壊れるからといって、不便かもしれないが荷馬車などが、交通の主流となっている。
他にもこの街には、その世界観が壊れるという理由から、様々な物が禁止され、別の形を取っている。
先程のモノの様に例を挙げるとキリがないが、夜の街を照らす街灯一つをとっても、電気を使わないガス灯を使用し、社会の治安を維持する警察の代わりに、重厚な鎧を纏った騎士団といった風に、現代の日本ではあまりお目にかかれない形へと変化している。
なかなかぶっ飛んだことをしているけど、それでもこの街ではそういうものが一般的で、普通なのだ。
現代の生活に慣れた人からしたら、かなり不便であろう。
しかし、それでも「住めば都」や「地獄も住処」という言葉の通りでもある。
それに何より私はこの街が気に入っているし、単純に好きなのだ。
そして、街灯や馬車では飽き足らず、銀次郎氏の拘りだったのか、街の中心には西洋のお城まである。
拘りだけで、日本で大人気の某テーマパークもビックリな規模のものを作り上げた事に頭が下がる思いである。
*****
さて、私こと二神悠は、この『クアルト』の私立四宮大学園の高等部に通う学生だ。
四宮大学園は、その大学園の名前に負けないスーパーマンモス校だ。
言葉の意味が分からないかもしれないが、幼・小・中・高・大一貫という馬鹿げた教育機関で、この街に住む学生は全てここに通い、この学園は街の敷地の中心にある。
だが、先程語った様に中心にはお城がある。
まぁつまり、そのお城とその周辺がこの学園という事になる。
全くファンタスティックな事を平然とする銀次郎氏の事は置いておいて、私の事だ。
冒頭で語っていたように、今日は始業式で、今日より私は進級して二年生になる。
では「なぜこの善き日に暗い顔で登校しているのか?」と訊ねられたら、それには訳がある。
その訳というのは、私には人に言えない秘密があり、その秘密とは――
「あっ!おはようございます、二神さん」
「ええ、おはようございます」
考えに集中していると、同じ制服を着た生徒に挨拶されるが、それには先程の暗い顔などおくびにも出さずに、笑顔で応える。
なにせ私は美人で、優等生で通っているのだから、コツコツとこういう事は欠かせない。
「おはよう、二神さん。今日も輝いているね」
「ふふっ、ありがとうございます。先輩もおはようございます」
「お、お、おはようございます!悠お姉様!」
私をお姉様と呼ぶのは中等部の子だろうか?可愛いものだ。
満面の笑みを顔に張り付けて挨拶を返す。
「ふふふ、おはよう」
「きゃぁぁーーーーっ!!」
先輩、後輩、同級生からも大人気な私は、笑顔を忘れずに挨拶だ。
普通の人なら私の今の状況が羨ましいだろう。
血涙を流す人いるかもしれない。
私もきっと傍から見ていたら、そう感じるのかもしれない。
それでもやっぱり辛い事がある。
その理由は――
「ゆ〜〜〜う〜〜〜〜待ってよ〜〜〜〜」
この後ろから聞こえる、気の抜ける様なほんわかボイスは、私の親友の楓だろう。
三井楓。
茶色の髪を肩に乗る様に束ねられた二本のおさげ。身長は150センチほどだが、その身長とは合わないとてつもない巨乳だ。
アレだ、世間様が言うロリ巨乳――じゃなくて、トランジスタグラマーだ。その体系は日本の神秘ともいえよう。
その小さな体をひょこひょこと動かしながら、近づいてくる様は、まるで飼い主を見つけた時の子犬の様で、とても可愛らしい。
抱きしめてそのままお持ち帰りしたい程だ。いや、しないけどね。
「なんで、先に行っちゃうの!?」
「ふふふ、ごめんなさい。でも、そんなに頬を膨らますと、楓の可愛い顔が大なしよ」
プンプンと擬音が出そうなほど怒る楓に、頬笑みながら話を逸らし、楓の顔を両手で包み揉み解す。
「え?えへ〜、私可愛いかな〜?」
すると、頬に手を置かれた楓は、照れたようにくねくねしだす。
私が楓を寮に置いていった事は、すっかりと忘れてしまったらしい。
この子は、そうだな……ちょろ可愛い。本当に可愛い。ついでに、あざと可愛い。
狙ってやっている訳じゃないからいいけど、下手したら嫉妬した女生徒達に、女子トイレという名の拷問室に呼び出されても仕方がない可愛さだ。
油断していると、ずっと愛でてしまいそうなので、彼女の顔を撫でていた手を渋々ながら離す。
「さぁ、楓。学園に行きましょうか?」
「うん!えへへへ〜今日も悠を独り占めだ〜」
「ふふふ。そうね」
笑いながら相槌を打つ私の腕に、さっきまで怒っていた筈の楓はその大きな胸を押しつけて絡んでくる。
幸せな感触が腕を支配する。
嗚呼、本当可愛いなぁ。楓が笑うと元気になれる。
きっと神様は私を楓と出会わす為にこの様な試練を与えたのだろう。
全ての理不尽をそう思う事にして、私達は学園へと歩を進めた。
私の秘密は――また後で語ろうと思う。
今ここで、この幸せな気持ちに水を差すのは野暮な事だと思うんだ。
次の投稿は12時です。




