5 魔女とドラゴン
本当は、少しほっとしたのだ。
ドラゴンの番になれば、ドラゴンと同じ時間を生きる。
つまり、死が訪れるということ。
老いることもなく、死ぬこともなく紡いできた長い長い時間に、終わりが来るということ。
道連れにしてしまった四人も、解き放つことができるということ。
「よい、終わり方だ」
ドラゴンの老いは人間の目にはよくわからない。
「伴侶を得、私は幸福だった」
そう小さく呟く竜の手を取る。
最初に会った時は見上げる大きさだった竜も、人間と同じ大きさでずっと過ごしてきて、この大きさの方に慣れきってしまっている。
「ドラゴンは、死ねば竜の谷に魂が飛んで行く。番もだ。……死なないと、あなたを私だけのものにはできないな」
竜の谷が本当にあるかどうかはどうでもよかった。
「最初に会った時、あまりにもあなたがそっけなかったから、間違ったのかと思った」
竜が目を閉じる。
「ドラゴンとしてでも人間としてでもなく、私たちは私たちの形で伴侶として添い遂げた」
「ええ」
「あなたに会えたのは、幸いだ」
「わたしも」
人間同士のように抱き合ったりはできないが、ただ寄り添うだけで満たされていた。
「あなたがわたしを、時間の呪縛から解き放ってくれた」
「ああ」
「今までずっと、ずっと一緒にいたのに、お別れだと思うと寂しいわね」
「そうだな」
「わたし、おばあちゃんになったわ。駄目だと思っていたのに、おばあちゃんになれたの」
「……」
「シュルヴェステル」
「ああ」
「楽しかったの、わたしの時間が動いたから」
「ララ」
「こっち、見て」
「……」
「あの子たちはみんな、人間として生きていくの」
「……」
「だからきっと、すぐに会えるわ」
「……」
「人間は長く生きられないから」
「……」
「わたしもあなたに、会いに行くから」
「……」
「待っていて」
「……」
「……」
静寂が重く落ちて、ララは竜の手を離した。
竜の魂は、つがいと一つになって竜の谷へ。
ある日、ある国の、森の一軒家が炎に包まれて、消えた。