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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日から学校と仕事、始まります。①莞

昔話、のん太郎

作者: 孤独

何事も造り上げる行いには頭を回すものだ。それでも好きだと感じながら、動かす手と知恵を振り絞る頭が止まることは多々あるだろう。

これから先、0円という値段で良いのなら、創造ではなく想像で終えることになんら未練はないのかもしれない。動く手と知恵を出す頭が止まることに何も感じないかもしれない。


「う~~、ダメだ」


社会で生きていくことは労働をすること。別に他でも良かったと、少し前は感じていた。

しかし、彼は決意を再び呼び起こし、遅まきながらも自らの夢をまた追ってみる。凄い遠くから、自分の答えを造り上げるため。



「ネタがまだまだ浮かばないな」


まだ、その価値が定まっていない漫画を描いてる。魔法の世界に住む、1人の大魔法使いの少女の日常物語。

絵の魅力に惹かれてからその少女が初めての、彼にとってのキャラクターだからだ。



「瀬戸、助けてくれ」



専門学校からフリーターというコンビニのアルバイトながらも、漫画家を目指しているこの男。名を蓮山銅也はすやまあかや。この数年後、彼の名は漫画業界に加入することになる。その彼の苦悩の1ページ。




◇   ◇



「いらっしゃいませ~」


そう言ってくれる女性ウェイターの目は少し眠そうだった。それほどの時間に集まるのが、クリエイターという夜行性に分類される24時間体制の労働者達である。



「蓮山。今日は僕だけじゃ無理だから、僕の仲間にも来てもらったよ!」

「わるぃな。瀬戸」


専門学校時代からの親友、瀬戸博せとひろし。現在もエロ絵師として活躍中のバリバリのデザイナーであり、”変態絵師”と評されるほどの2次元クリエイター。人物描写に関しては、質と速さは超一流。しかし、立派な社会人とは良い難いほど性格にムラがある気分屋であり、身長も小学生レベルであるため子供のように思われることが多々ある。昔、ボッチではあったが、その腕を買われて様々な人物と出会えた。蓮山もその1人。



「蓮山さんとは専門時代でご一緒でしたね」



瀬戸の仲間の1人。プログラマー、安西弥生あんざいやよい。ちなみに瀬戸の仲間は全員、専門時代からの繋がりがある。優秀なプログラマーであり、堅実かつ忍耐力のある女性プログラマー。頭の中はプログラミング脳と、BL脳に侵されている。プログラマーになった経緯はどんな形でも腐関係の創作物を手掛けたかったから。地味めな服装と髪型、顔であるのがある意味の特徴。



「よく覚えてるわね、弥生」


企画担当、工藤友くどうとも。通称、友ちゃん。誰でも楽しませる企画を行なってしまう、おバカそうに見えてしっかりしたムードメーカータイプの企画さん。楽しい物をより楽しくするため、知恵はもちろん労力、手段も問わないほど面白さを追求する。たまに瀬戸や安西に多大な苦労を与えることもしばしば。それでも、プレイする多くの人々を楽しませる企画と発想の、常識人寄りの天才。

勝気のありそうな赤髪とつり目に、控えな胸のせいでちょっとボーイッシュな女性。安西とは専門からではなく、高校時代からの親友。



「それにしても、蓮山くんも夢を追っている身なのですね」


営業担当、弓長晶ゆみながあきら。ポニーテールのさわやかなイケメン営業マン。学生時代にゲームデザイナーを志すも、周囲のレベルを痛感して裏方に徹するようになった。顔立ちのみならず、礼儀や常識、駆け引き、営業トークなどなど、蓮山、瀬戸、安西、友ちゃんなどのクリエイターにはない、高い営業能力で物を販売、紹介している人。瀬戸、安西、友ちゃんとは同じ会社で働いており、弓長がいなければ会社は倒産しているほどの影響力を持っている。ちなみに会社の社長に抜擢されてる。



「わ、悪いかよ。フリーターになっても、夢を追いかけてる姿が泥臭いか!?」



そして、このお話の主人公。コンビニアルバイト、蓮山銅也。年はこの中で弓長の1つ下、瀬戸と安西、友ちゃんとは1つ上にいる。蓮山は高校時代で1年、留年経歴がある。労働のおかげか、この中では比較的に健康的な体格を持っている。漫画家を目指して、出版社に漫画を持ち込んでいる。学生時代は瀬戸と並ぶコミュ障であった。



「いえいえ。私と違い、羨ましいと思ったものです。すいません、注文を良いですかー?」



弓長がメニューを持ちながら、ウェイターを呼んで。企画会議前の、前菜を用意するのであった。


蓮山が瀬戸に頼み、瀬戸が会社の仲間に頼み込んで実現したこの企画会議。そもそもなんの企画会議か。



「俺の漫画なんだが。正直、ネタに困っているんだ。それに面白いかどうかの判断も不安でな」


漫画家を目指し、漫画を描いている蓮山であるが。やはり1人で目指せば、その判断がとても正確にできない。自分のオナニーが詰められたような作品ばかりになるだろう。漫画家というのはそれを含めた上で客観的な評価をとれなければならないものだ。瀬戸には何度かチェックをお願いしていたが、今回は別の視点からの意見が欲しかった。

蓮山の同人誌を何冊か読んでくれるメンバー。

のんちゃんという愛らしく、可愛さ満点の美少女。目を惹かせる紫色の髪に、ファンシーなゴスロリファッションと可愛い傘を持つ子。


「阿部のんちゃんね。蓮山くんって、瀬戸くんほどじゃないにしても可愛い少女が描けるんですね」

「お、おお。直に声に出して言われると嬉しいな。今までネットの文字ばかりだから」

「あんたってロリコンなのね。こーんな子ばかり描いているなんて」

「ぐぉっ。ひ、否定はしない。のんちゃんは好きなんだ」



弓長が頼んだ前菜が来るまでに、蓮山の作品。”人気者だよ!のんちゃん!”を一通り読み終える。

総評は様々。女性2人からは少し気持ち悪がられるも、この作品からは成長の予感がある。一方で男性2人からは納得がいくところもあれば、いかない面もある。


「漫画の技法はともかく、口で伝えるよりも蓮山くんが学ばなければいけませんよね」

「技術はそうするよ。まだまだ、できない方が多いさ。1週間後には成長しているさ」


作品の総評としては、平均すると普通。面白いが、凄く面白いとは言えない。

蓮山がとにかく困っていることは絵のスキルではなく、話の作りこみにある。特にこーゆう関係を仕事として携わっている友ちゃんの口は強かった。


「在り来たりで幅が狭い」

「うっ」

「なんていうか、のんちゃんの”絵”で面白さを伝えるところが多いのよね。のんちゃんという”キャラ”で楽しませなさいよ!」

「さ、参考になる。しかし、どうやればいいんだ?」


それが肝心なのである。今まで辛口評価をもらっても、一切のアドバイスがないこともあった。文句ばかりで具体案がないことが多い。

しかし、友ちゃんは当たり前のように蓮山に助言する。


「人の作品を参考になさい」

「人の作品を参考に……?盗作になるんじゃないか?」

「そのレベルにまでしなきゃいいじゃない。色んな作品を読めば、それらが合わさって様々な展開、話の練り上げができるものよ。人の作品を参考するってことは、在り来たりに言えば人間の食事と思って!」


世界でも屈しの魔法使いである、のんちゃん。”独占”という超危険な魔法を扱うのんちゃんは人々から人気を独占してしまい、注目の的どころか自分のストーカーをも生み出してしまう。ドタバタ魔法に翻弄される、のんちゃんの魔法学校生活!


「案は悪くないと思うわ。ただ、コメディーとしての要素が弱いと思うの。あなたのこれってコメディーでしょ?」

「男性用少女漫画なんだが」


完全にオナニー用じゃねぇか!!

そういった空気が走り、一瞬だけ場が膠着するも、友ちゃんは溜め息を1つついてから自ら手本を見せる。



「これはコメディー路線が良いと思うわ。瀬戸、スケッチブックあるんでしょ?」

「と、当然あるよ。でも何するの?」

「私が言ったことをあんたなりに描いてみなさい。”キャラ”で楽しませるということ、人の作品を参考することを手本にしてあげる」


所謂、3次創作である。蓮山ののんちゃんを初めて3次創作したのは友ちゃんと瀬戸であった。

話を考えるのには5分ほど、その作品を造り上げるのには10分ほど。生で瀬戸のペン使いを見てしまうと、プリンタは遅いのではないかと錯覚するほどの超スピード。蓮山が何年もかけて完成させたのんちゃんのフォルムを5秒も掛からずに、特徴をしかと捉えて描き込む。


「よし、できたよ!」

「それではこれより、昔話、のん太郎のお話を始めまーす」


朗読、工藤友。絵、瀬戸博による。のんちゃんの物語が始まった。


「昔々、のんちゃんという裸エプロンを付けたとても可愛らしい魔法少女が山におりました」


のんちゃんが裸エプロンの姿で山道を歩いていく姿が、瀬戸の持つスケッチブックに描かれていた。



冒頭からのぶっ飛び具合から、のんちゃんの作者である蓮山も噴き出しながら怒りと笑い、わずかな下心を持って言う。


「のんちゃんを痴女扱いすんな!!」

「だって、あなたののんちゃんって可愛い上に綺麗過ぎるのよね。おバカな部分をいれるべきだと思うの。あんたも瀬戸も、弓長だってこーゆうのに興味あるんでしょ?」

「だからって裸エプロンはない!アホ過ぎる子じゃないか!ありがとう、瀬戸!!」


一方でぶっ飛んだ冒頭に笑みを出しながら、前菜としてやってきた日本酒を飲みながら一言。弓長は


「お借りした題材は、昔話の金太郎ですか?友ちゃん」

「ええ。有名な昔話や童話は一通り見てるのよ」


その昔話もこのように何かと合体すれば早々分かるものではない。まったく別のストーリーとなるのである。


「のんちゃんは今日もいつものように山の魔物達と一緒に遊んでおりました」


のんちゃんは必死になりながら、目がハートマークになった魔物達から全力で逃げる姿が描かれていた。裸エプロン故、可愛いお尻がモロに魔物達ならず、読者様に見える形になっている状態が描かれていた。


「襲われてんじゃねぇか!!原作通りだけど、これじゃあ読者からも襲われるし、俺はのんちゃんをこんな苦難にできねぇ!」

「可愛いお尻を描くことに力を注いだよ」

「かけっこ風に描いた方がまだ良いですよ、瀬戸くん。蓮山君は少年誌向けを目指しているんですから」


蓮山の原作でも、のんちゃんは人を魅了させ過ぎてストーカーまで生み出してしまうほど。しかし、人間以外の生物にまで好かれる設定は考えていなかった。強力な能力なため、山で母親と共に幼少期を送っている設定のため、この創作も筋が通っているちゃー通ってもいた。


「今日も元気にのんちゃんは魔物達と楽しく遊んでおりました」


のんちゃんを襲っていた魔物達は急に人間の男達に変わっており、のんちゃんは悲劇にも捕えられており、その表情はとにかく強烈な悲観を表していた。目は虚ろに近く、唯一の衣類であったエプロンも破れ、男達からの液が掛けられていた。


「瀬戸ーー!これのんちゃんが完全にヤられてんじゃねぇか!つーか、わずか1ページで魔物から人間に代えるんじゃねぇよ!」

「僕、魔物やロボットは専門外だから面倒なんだ」

「どこがこれ遊んでたの!?男達がのんちゃんで遊んでるだけじゃねぇか!?青○じゃねぇか!集団で幼女に襲い掛かるんじゃねぇ!!」

「そーんな設定ができる少女を描いたあなたにも責任があるじゃない!!」

「瀬戸くんは男子のキャラもカッコイイねー」

「安西さーん。少し見るところが違いますよ」


さすがに原作者も怒る、非情なエロ展開にこのページはカットされることになる。怒涛の2ページであり、すぐに1ページをカットされる始末。


「ある日、のんちゃんはお隣の山にいるとーっても強い熊さんのことを知り、のんちゃんは会いに行きます」


ボロボロに男達に遊ばれ、泣き出しながら。自分を救ってくれそうな強い仲間を求める顔で、隣の山へと走っていくのんちゃんの姿が描かれていた。まるで悲劇のヒロイン。もろ悲劇を喰らった女キャラの表情であった。



「確かにこれは助けを求めなきゃダメだけど!なんか違うぞ、のんちゃん!!」

「もう思考麻痺しているんじゃないですか?」


さらに続く。


「のんちゃんは熊と出会い、腰の上にも乗ってすっかり熊さんやその仲間達と仲良しになりました」


のんちゃんは友ちゃんの説明とは異なり、完全な大男がのんちゃんを地面に押し付け、エプロンを引き剥がし。その巨体に相応しい大きな棒をまさにのんちゃんの下の口へと挿入しようとしていた。



「やっぱりやられたーー!!これは仲良しとは全然違うぞーーー!!のんちゃん、完全にアホで痴女な子になってるーー!」

「完全に友ちゃんも瀬戸くんペースに飲まれてますね」

「朗読さんまでノリノリじゃないですか」


すでに金太郎の原型はどこにもなかった。これ金太郎風に話を造り上げたと言って、信じてくれる人はまずいないだろう。


「ある日、のんちゃんは川を越えるための橋が壊れているところを遭遇しました。向こう岸には男達が困った顔をしておりました」


そこには崩れ落ちた橋にとても悲観する男達と、少し安堵したかのような表情になっているのんちゃん。のんちゃんの手には橋を支えていた杭が握られていました。


「のんちゃん、あの状態から逃げ切った!橋落として男達を遠ざけた!!」

「朗読と絵がまったく違う!」


なんとか橋を落とし、男達から完全に逃げ切ったのんちゃん。


「そこへ知人の紹介により、この山をその魅力と身体で仕切っていると言われる少女の噂を聞いたアイドルのスカウトさんが、のんちゃんを見つけました。可愛らしさと卑猥な姿にこの子だとすぐに理解しました」


のんちゃんの背後に立つ、いかにも都会暮らしをしているスーツ姿の男。のんちゃん側の橋の方になんといた。


「危ないのんちゃん!襲われる!」

「なんつー、スカウトだ!!」

「誰だよ!こんな奴にのんちゃんを紹介したの!」



そして、ラスト2ページ。



「『君、こんな山で男達の○欲○理として埋もれるくらいなら、私と共に都会に出て清純かつ庶民向けの○○アイドルを目指してみないか?君ならトップアイドルになれる資質がある!』」


真剣な顔でのんちゃんをスカウトする男に


「『都会で清純に働くアイドル!?のんちゃん、なってみたいでーす!!そんなアイドルになりたいです!』」


のんちゃんはあっさりと男の言葉に元気な声で、承諾するのであった。



「ダメーー!のんちゃん!ほいほい人を信じちゃダメーーー!」

「伏字の部分をよく聞き取って、のんちゃーーん!」

「山で暮らしていた頃よりお金はもらえそうだな」


こうして、のんちゃんはお母さんのところへスカウトさんを案内するのであった。そして、お母さんとスカウトさんは話し合います。



「『私の娘、のんちゃんはどれくらいの価値があると見た?』」

「『1億はあります』」

「『ならその10倍がのんちゃんの契約金よ。紹介料は即時契約ならば免じてあげるわ』」


「のんちゃんを売ったの母親だったーーー!!のんちゃんの母ちゃん、とんでもねぇーキャラしてんぞ!」

「蓮山。あんた、もう少しキャラを掘り下げなさい。あと10人ぐらいキャラ固めなさい」

「のんちゃんがアホ過ぎるし、周りが酷いからより可哀想に思える……」



締め。



「こうしてのんちゃんはスカウトさんと一緒に都会に出て、アイドルとして活動するようになりました。その魅力で多大な影響力を持ち、一気にトップアイドルへと駆け上りました。恵まれた素質はもちろん、日ごろの努力、仕事に対する勤勉さ、夜な夜な行なう枕営業。のんちゃんは立派なアイドルとして活躍するのであった。めでたしめでたし」


大団円として、みんなが笑顔になっている絵なのだが。蓮山にはどうにもそれが



「のんちゃんの笑顔が、作り笑顔に見えるだろうがーーー!」



なんだか自分の作品も変わってしまった3次創作を見てしまった蓮山であった。しかしながら、何かを参考にするという力がどれほど絶大で効率が良いかを思い知った時でもあった。

のんちゃんの話を描きながら、ネタを集めに様々な話を探したのは言うまでもない。

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