ゾンビウィルス研究所の洋館だが、なんか大統領がやって来た
ゾンビの徘徊する『あの洋館』。
私も子供の頃、怖くてビクビクしながら遊んでいたものです。
もし私が大統領になってそんな世界に入ったらどうするかなぁ、というお話。
初投稿作です。
サイトの特色も勉強中です。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。
「あの洋館がゾンビウィルスを漏洩させた研究施設かね?」
私の問いに、秘書官が粛々と返答する。
「はい、その通りでございます。大統領」
「分かった。では手筈通りにせよ」
奥深い森……の手前の拓けた土地にベースキャンプを作った私は、そこの特設通信施設に居る。
そして秘書官が軍の部隊に連絡し、間もなくそれはやって来た。
耳をつんざく爆音。
「弾道ミサイルが着弾しました」
「よし、やったか?」
「やりました。洋館の上層施設、消滅」
通信施設のモニターに、廃墟となった洋館が映る。
「続いて着弾。ゾンビの群れがゴミの様に宙を舞っています」
「これだ、この光景が見たかった。素晴らしい」
「更に着弾。爪を生やした強そうなゾンビが、瓦礫の山で泣きながら白旗を振っています」
「それは粉塵で見えん。次だ」
「着弾します。炸裂。ゾンビの一匹が抗議のつもりか、両手を上げて喚いています」
「ゾンビは喚くものだ。抗議では無く習性だろう。気にするな」
「着弾。ゾンビ犬が腹を見せながらクーンクーンと鳴いている様子です」
「アイツがゾンビで良かった。もし生きていたら動物愛護団体に訴えられ、私のキャリアは終わっていただろう」
「四連続で着弾します。一つ、二人のゾンビが一緒に逃げています」
「生前はカップルだったのだろうな」
「二つ、片方のゾンビの足がもげて倒れました。首を振って、もう一人に走るよう促しています」
「足手まといよ、貴方だけでも逃げて。とでも言っているのか」
「三つ、足のもげたゾンビをもう一人が担ぎあげて、そのまま逃げるようです」
「嫌だ! 絶対に諦めない! 必ず生きて帰るんだ! ゾンビだから死んでるけど」
「四つ、二人の直上急降下。命中です。燃え上がる恋は跡形もなく消える運命なのでしょう」
「はい、どーん」
俺たち大統領はリア充爆発しろと言わない。なぜなら実際に出来るからだ。
あえて言うなら……リア充、爆散した!
「更にミサイル接近。順調に地下研究施設を破壊している模様です」
「うむ。あんな所に行って、ゾンビに噛まれたら目も当てられん。ミサイルで焼却するのが一番だ」
「大統領、あの研究施設からのホットラインです」
「繋げ」
私は電話を手に取った。
「もしもし、大統領だ」
「卑怯だぞ」
「名乗れ。私は大統領閣下なんだぞ」
「お前らがミサイルを撃ち込んでる研究所のゾンビだ」
「そうか。何か用か?」
与える情報は少なく、相手に話しをさせる。
外交術の基本テクニックだ。
「卑怯だぞ」
「要領を得んな。何が言いたい?」
「せっかく森の中に洋館を作ったんだから、そこに逃げ込んで貰わないと困る」
「だってゾンビ居るし。怖いし。噛まれそうだし」
「そりゃ少しは噛むけど、ミサイル撃たれる程に悪い事とは思えない」
「噛まれるの嫌だからミサイル」
私は完全に言い切った。
「卑怯だぞ」
「ミサイル噛めばいいじゃん」
「でも凄い勢いで爆発してくるし」
「噛んでみたら、案外に大人しくなるかもしれんだろ? やってみた?」
私の問いに、やや黙りこむゾンビ。暫くして返事をして来た。
「そういや、まだ試してない」
「じゃあ噛んでみてから連絡してくれ」
電話が切れて、私は衛星カメラ映像の映ったモニターを探す。
「あちらのカメラが洋館の衛星映像です」
「うむ。誰か出て来たな」
「恐らくは先程まで電話していたゾンビでしょう。何やら口を開けて空を見てますね」
「噛むつもりらしい。チタン合金の弾頭なのだが」
「え? 噛むんですか、ミサイルを」
「ああ、私が噛んでみろと言ったからな。馬鹿なゾンビだ」
ずばばばばばばば。
「アレは弾頭の分裂するクラスター爆弾です」
「あっ」
「噛もうとしてたゾンビは……あの辺りですかね」
「あの辺りだろうな。小さいクレーターだらけでよく分からんが、たぶんあの辺りがゾンビだ」
「大統領、研究施設からお電話です」
「繋げ」
私は受話器を手に取った。
「もしもし、大統領だ」
「ズルいぞ」
「すまん。ちょっと間違えた。まさかクラスター爆弾だったとは」
「あんなの噛めとかドン引き。噛もうとした奴、バラバラ。流石は大統領、最も嫌な方法で他人を騙す」
「人聞きが悪い。私は約束を守る男で評判なのだ。ちょっとクラスター爆弾だっただけだ」
近所でも評判だから間違いない。
少なくともお金をチラつかせれば誰もが讃えてくれる。
「ズルいぞ」
「というか、さっきからやけに流暢な口調だな。本当にゾンビか?」
「ズルいぞんー」
「そんな語尾でキャラ作りされても困る。聞き取り難いから」
「せめて噛める相手と戦いたいびー。もうミサイルは嫌だびー」
「分かった分かった。じゃあミサイルは次の一発で終わりにする」
そろそろ年末の予算大消化祭もフィナーレが近いからな。
「なんで次の撃つびー?」
「もう撃っていたんだ。着弾までの時間差という奴だな」
「ミサイルはやめて欲しいびー。ズルいびー」
「でもなー。撃っちゃったしなぁー。一発だけだし、地下施設の耐久力なら我慢出来ない?」
「んーーー……」
「君たちのしぶとさを信じたい。どうか『トラスト・びー』と言ってくれ」
電話口の向こうで長考するゾンビ。
「分かったびー、じゃあ一発だけ我慢をするびー。トラス」
「地下要塞用ミサイル、バンカーバスター着弾しました。地下研究施設は木っ端微塵です」
「電話が切れたな。断線か?」
「大統領、研究施設からお電話です。どうやらもう一台、電話があったようで」
「繋げ」
私は新しい電話を前にし、その受話器を握った。
「もしもし、大統領だ」
「マジいい加減にしろよ、テメェ」
「何者だ貴様、無礼だな。ミサイル撃ち込むぞ」
「撃たれてるよ、とっくに。俺はボスだ、ボス。あの研究施設の一番奥で待ってるボス」
「グラサン掛けた人?」
「誰だそれ。でっかい爪生えてて心臓が肋骨から飛び出てるけど、グラサンは掛けていない」
そんな手で良く受話器持てるな、コイツ。
「なんだか化け物みたいな奴だ。というかもうゾンビ関係ないな、お前」
「まー、この研究所は俺みたいな化け物を作るのが目的だったし。ゾンビは失敗作なんだよ」
「心臓飛び出てるお前も失敗作っぽいけど」
「言い過ぎだろ。弱点だって個性の一つなんだよ。それを認めないお前は大統領の器じゃないぞ」
「すまん、言い過ぎた。心臓が飛び出てる人向けの助成金を出すから許してくれ」
「ならよし。で、話をしたいのはミサイルの事だ」
「ああ、ミサイルはもう撃たないぞ」
さり気ない私の一言に、電話の向こうに居るボスとやらが放心する。
「え? マジで」
「うむ。大統領として、約束は守る。ミサイルを撃たないと言ったからには、もう撃たない」
「やった。次もアンタに投票するよ。でもミサイルを撃たないで、どうやって俺たちと戦うんだ?」
「無論、そちらに乗り込むしかあるまい。危険だが、それが私達の仕事だ」
「やっと分かってくれたか。よし、全力で相手をしてやるから掛かって来い」
相手は言いたい事だけを言って、電話が切れてしまった。
「ミサイルの準備は?」
「全て万端です、大統領。いつでもご命令を」
「うむ、発射命令は取り消しだ。約束を守らねばならん」
「了解です。しかし敵は残っておりますが、如何しましょう?」
私は椅子から立ち上がると、森の向こうにある洋館(廃墟)を睨んだ。
「ロケットランチャーとマグナム銃を装備させた一個師団を送り込め。私は帰ってゲームして寝る」
「はっ」
「あと一番奥に居る奴は心臓が飛び出てるから、スナイパーライフルでそこ狙え」
「了解しました。では、そのように」
こうして、洋館で偽装されたウィルス研究施設は、完全に粉砕された。
大統領閣下自らが先陣と立ち、数多のゾンビや手強い化け物を倒したこの事件。
長年に渡り英雄談として語られ続け、第二期の大統領選を当選させる大きな一助になったという。
だが忘れてはならない。ウィルスに感染した者たちも、かつては生気溢れる人間だった事を。
感染被害者に天国の門が開きますように。幸いあれ。
「核を使うまでもありませんでしたね、大統領」
「それ使うと負けパターンだしな。通常弾、万歳」
完
他にも『あの洋館』を使ったネタを考えていますけど、
まずは「軽く読める短編」として投稿させて頂きました。
基本、こんな感じのギャグばっかりの小説を書いていこうと思います。