前提
何も難しい話をこれからしようという訳ではない。いたって単純で、簡単で、そして不条理な話である。
君はこれまでもこれからも、果てしなく日常から乖離された世界の中で生きてきた。目の前に映る光景は確かに日常そのものだから、曇った目は異常を映さない。もう既に、彼らは日常の中に溶け込んでしまっているからとも言える。
表向きの日常はもう懲り懲りだ。
『コンサイバー』と呼ばれる者たちを聞いたことがあるだろうか。――いやいや、そんなはずはない。彼らはその言葉すら日常の世界に現れてこない。昔は都市伝説という形で存在していたが、既に風化され埋もれた者達だ。情報伝達がなされないまま、一部の地域で流行り、一部の地域で風化した。
裏向きの世界を紡ぐのは彼らだ。ほんの前まではヤクザやマフィアが裏社会の人物として存在していたが、今や存在自体がなくてはならないものだ。私は思う、それらは全て表の世界の範囲に入っているのだと。
目に見えなければ裏の世界という定義は、私は納得できない。
目に見えて、それを知らない、認知しないことこそが裏なのだ。
コンサイバーとは、能力者の総称だ。人間では到底成すことのできない様々な現象を容易に起こすことができる。
例えば手を振れば雷が踊り、足を変形させ空を飛んだり。更には重力や大気を操る者共までいる。
コンサイバーはもう、どこにでもいる。人間の中に隠れ、職に就いたり暮らしを満喫したり、それはもうどこにでも。
実は、彼らは元々とある海上施設にて息を潜めていたのだ、ということを事実として君は捉えるとよい。彼らの中で独自の世界を築き上げ、独自の文化で生活をしてきた。
実は、それ以前は人間と共存していたのである。今はコンサイバーが表に出てきては処刑とされ、生きることはできない。
――なぜ、コンサイバーは海上施設の中で暮らさなければならなかったのか。
――なぜ、コンサイバーは処刑に値する存在になったのか。
――コンサイバーとは、なんなのか。
さすがに、今全てを語るのは野暮だ。私の筆はもう休息を求めて折れ曲がっている。それは君もそうだろう。
最後に、確定された事実を語らねばならない。最初にいった、不条理な話というのがまさにここに当たる。私とて、この事実を知れば良心を揺さぶられる。語るのも辛い。しかし、隠すこともまた、彼らに対する冒涜だ。最後に、事実を語る。
「コンサイバーは等しく、幸せになれない」