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第十七話

 近藤ファミリー、とは今私が勝手に呼称したものである。メンバーは中心人物の近藤。父の公史、そしてウィンガー。この三人はどうやらチームであるらしく、纏まって動くことはしないが裏で連携を取り合いながら何かをやってるらしい。

 もっと良い名前をつけてやりたいが、私にネーミングセンスは無い。

 そして午後ケルヴィンの元に私と、三人が集まった。同伴者として、美奈も集まっている。

 場所は母から借りた小さいワンボックスカーで二時間程走った所にある無人駅から、更に歩く。森の陰に隠れて日当たりの悪い所に立てられた空き家だ。その一室には物という物が何一つ置かれていない。ただの四角い空間のように思えた。

「この家、どこで調達したんだ?」

 父がウィンガーに聞いた。ちなみに、父は会社の制度を使って早く帰ってきたそうだ。有給とはまた違うらしい。

「隣にアパートがあるだろ? あそこのオーナーが土地半分余っててその対処に困ってるようでねえ。半分貸してくれないかーって言ったらオッケーもらったんだ」

「お前もそのオーナーって奴も軽いな。で、値段は?」

「驚きの五千円! ま、妥当だろうねえ。おんぼろ小屋を借りただけだし」

 広さも、八畳分しかなく、ワンルームの、本当に物置のような家だ。

「カメラの準備はできてる? そろそろ始めるわよ」

 ウィンガーは脚のあるカメラを持ってきて、部屋の隅においた。私とケルヴィンは中央で行うらしい。儀式みたいだ、とケルヴィンが呟いた。

 準備は整った。ケルヴィンが中央に座り、包帯を取った右腕を出した。私は剣を手に取り、刃先を軽く当てて狙いを定めた。刀越しからも、人間の皮膚とは思えない程の圧力があると感じられた。

「能力に触れるだけでいいの」

 私は確認するためにもう一度聞いた。触れる、というのは、ケルヴィンの変異した腕に触れるということである。

「それだけでいいわ」

「私は能力を使った方がいいのか」

「強制発動されるし、一々面倒な事しなくていいわよ」

 今の部分カットで、とケルヴィンに目を向けた。彼はその意図を察したのか不明だが、頷いた。

 あまり力は必要ないと近藤から教わっているが、力が篭っていた。

 腕を徐々に上に伸ばし、侍がそうしていたように、私も刃先を後方にそらすように剣を持つ。

「幕末みたいだな」

「黙って」

 一点、ケルヴィンの腕に集中した。気合を入れて、全ての力を注ぐ。

「はぁッ!」

 風を切りながら、私は勢いを失わずにケルヴィンの腕めがけて剣を縦に振った。

 腕に届くわずか一センチメートルくらいの距離で能力が発動し、私の剣を弾いた。強い勢いであったが、私は即座に脚を曲げて体制を立て直した。

 これで能力が消えたのか?

 全然違うと言いたい気分だ。目の前で鎌になった手は警戒するように宙を漂っている。

「近藤、話と違う。能力の一部にでも触れれば消えるはず」

「私も聞いていた限りそうだったんだけど……まさかちょっと違った?」

「待て、あれは……骨?」

 父は意外な様子でそう言った。美奈は驚きながら、ケルヴィンの右腕を注意深く見た。

「切っ先が骨になってるんだ!」

 カメラにも完全に聞こえるような声で美奈は言った。

「そういうことね。骨は能力の一部じゃないから戒ちゃんの剣が通用しない」

 話がようやく掴めてくる頃になると、暴走し始めたケルヴィンの腕が私に向かってきた。剣の刃で攻撃を受け止める。

「能力が解除できない!」

 ケルヴィンは慌てて腕を抑えたが、腕は元に戻らなかった。彼の中では異常事態で、パニックになっていた。彼のパニックに比例するように、変異した右腕も素早さを増して、再び私に攻撃しようと一直線で進んでくる。私は剣の腹で受け止めた。

「近藤! どうすればいい!」

「予想外ね、とりあえず伸びた腕を切れば能力は解除されるんだけど」

 回避しながら腕に当てる以外に方法はない。私は剣を両手で構えて、大きく一歩踏み込んだ。

「よせ、戒! 今は逃げろ!」

 父のいう事を聞かず、私は迫り来る鎌を寸前の所を飛んでかわした。そのまま壁を脚で蹴り、鎌が戻ってくる前に腕を切り落とす。飛びながら、私は剣を握って腕に向け振り下ろした。

 直前、鎌が目の前に戻ってきた。早すぎる。私は剣を弾かれ、受け身をとれず地面にたたきつけられた。

 戒ちゃん! 戒! 何人かの声が私を呼ぶが、背中の衝撃は私をすぐに動かさない。天井に、自分に向かって鋭い物を向けている右腕の様子が見える。認知した途端、避ける暇なく降ってきた。

 ようやく自分の首元が狙われていることに気づいた時、視界を大きな影が横切った。

 美奈の変異した腕だ。彼女が私を守った。

「危なかったぜ……」

 父が私の両脇を抱え、後ろに引きずった。

「怪我はないな。ふう、焦らせやがって。生きててよかったぜ」

 父はくしゃくしゃに私を撫でた。

「近藤、どうする。これじゃあ能力を消す前に人間が一人消えるぜ。ウィンガーもそこで撮影に集中してないで色々考えろ」

「簡単でしょ~。美奈って子が抑えてくれてる間に斬っちゃえばいいのさ」

「そう簡単には行かないぜ……」

 息を切らした美奈が言った。彼女はまだ右腕が変化している。

「ケルヴィン、だったよな。あんたの骨硬すぎだぜ。私の力だけじゃ止めらんねえ」

「カルシウム摂り過ぎだ、お前」

 父は茶化すように言ったが、ケルヴィンは「くそ」と呟いただけだった。さっきから無言だが、彼なりに悔しいのだろう。

 あっ、とウィンガーが閃いた。

「骨って確か金属だったよねえ」

 近藤と父も互いに「おお」と声を出した。私にはさっぱり話が分からない。美奈もケルヴィンもだ。骨が金属だからどうしたっていうのか。

「戒ちゃん、作戦が決まったわ。あなたはもう一度攻撃に出なさい」

 先手を打ってきた鎌を側転で避けた。

「だけど剣があそこに」

 飛ばされた剣は、ケルヴィン付近の天井に突き刺さっていた。

 次に鎌は横から美奈を狙ったが、美奈は変化した右腕で受け止め、上へ逸らした。

「大丈夫。ウィンガー、分かってるわね?」

「どこまでも合点承知ィ! 公史君カメラまかせたよ!」

 父は突然投げられたカメラを慌てて受け止めた。

「いい? 戒ちゃん、私がいいっていったら走りなさい」

 その数秒後、すぐに「いって!」と声がかかった。私は再び一歩大きくステップを踏む。鎌は、今度は私の頭を仕留めるように動いた。トドメのつもりだろう。私は膝を曲げ、横に転がって避ける。剣の丁度真下に辿り着いた。

「今よ、飛んで!」

 近藤の指示通り、高く飛んだ。剣までもう少し……! 届け! 

 私の手は剣の柄を握った。剣は天井から抜けず、突き刺さったままだ。私は宙に浮かされることになった。

 下を見ると、美奈が鎌を受け止めている。

「早くしなせえ!」

 ウィンガーが急かす。彼は両手を前に出しているが、何をしているのかは分からない。美奈の右腕が震え、既に限界が近いことを教えている。

 私は棒を登るようにして上まで着き、刃の部分を握って、片手で天井を押し上げた。剣をしっかりと握りしめる。

「戒早くうう!」

 美奈も叫んだ。私の剣を握りしめる手から血が流れてくる。徐々に剣は下がってきている、もう少しで取れる。

「ぬおぁ?!」

 美奈がウィンガーの方向へ投げき飛ばされた。一気に鎌は私のところへ向かってくる。

「うらあああああ!」

 私は叫んだ。

 剣は天井から抜かれた。私は両手で剣を持ち、刃を下向きにしてケルヴィンの腕めがけて勢いよく落下した。剣を握った時に私の頭の中に電気が流れこむようなあの感覚と、今は反対の感覚を得ていた。流し込むようだった。

 青い光が発せられた。切っ先の先端から、私を包むようにして。

 何かが焦げる匂いがする。私は力を込めて、更に剣を奥へ奥へと貫いていった。

 風が立ち込め、私を飛ばそうとするが耐えた。

 ケルヴィンの右腕は徐々に、人間の姿を取り戻していった。


「ウィンガーの能力は金属に反応する物でね。金属同士を引きつける効果を持ってるの。さっき戒ちゃんが天井でぶら下がってた時その能力を使って美奈ちゃんへの衝撃を柔らかくしてたのよ」

 帰りの車の中、助手席に座った近藤は説明した。

 四人しか乗れない車であることで、ウィンガーはあの家に置いて片付けをしている。録画したビデオの編集もしたいから良い、と拗ねながら家に残った。ケルヴィンも同様に、片付けを手伝うと行って家に残った。

 私は応急手当として包帯で巻かれた手を見た。剣を自分で握っておきながら、今更ながら痛む。近藤から消毒してもらう時も涙目になった程だ。

「大丈夫か、戒。痛くないか?」

 美奈の能力はまだ消していない。彼女の望みだった。

 ――戒を守れたんだから、まだこいつも役に立つのかな。

 彼女はそう言った。

「帰ったらとりあえず休め、戒。っていうか、今すぐ休んでもいい。お前、随分と眠そうだぜ」

 運転席の上についた鏡を見ると、父が鏡越しに私を見ていることがわかった。そして、自分の顔を見てみると、いかにも眠そうであった。

「言葉に甘える」

 私は窓に寄りかかった。

「私の膝の上にきてもいいぜ!」

「やめとく」

 私は外の景色を眺めているうちに、ゆっくりと瞼が落ちていく事に気づいた。

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