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第十話

 戒が生まれてその能力が発覚した時、公史は父親として今の仕事をやめるべきか悩んでいた。近藤と二人で話し合い、ようやく結論が出た後も彼の中にある葛藤は消えることはないようだった。

 公史は殺し屋であった。それも、コンサイバーに限った殺し屋だ。

 罪を犯すコンサイバーを炙りだし、国の代わりとして処刑するのだ。国はコンサイバーを処罰できない。彼らは超人な能力でどのような処刑を施しても生き延びることができ、ある特定の組織以外は誰も殺すことができないのが現状である。

 しかし、それはコンサイバーが人間に勝っているからであって、コンサイバーが同種を殺すことはできる。

 要するに公史はコンサイバーであった。同種の公史だから、処刑できた。

 コンサイバーの中で、同種の殺害は固く禁じられている。仲間意識の強い彼らこその約束事だ。公史はその約束を知っているため、裏で動くしかないのだ。

 だから、公史が殺し屋であることは近藤以外誰もしらない。コンサイバーではない一般市民であるが、妻の莢江さえそのことは知らないのである。近藤と二人で絶妙な連携を取り、周りに知られないように上手に誤魔化している。

 公史の能力は気体トランス型の種類だ。彼の吸う煙草から発せられる煙を変形させて、鋭利な鉄に変形することができる。

 能力を応用して、公史は煙を銃の中に仕込んでいる。ショットガン程の大きさをしたライフル銃の中に煙を仕込み、トリガーを押すことで煙を放射、変形と使うことで能力を使用している。

 使い方は三パターンある。用意する弾丸によって攻撃方法が変わる。

 まずガス放射器のように、一定距離の前方に勢いよく煙を放出する弾丸。ファースト・スモークバレットと公史は呼んでいる。トリガーを押し続ける限り広範囲に煙を撒くことができ、煙を全て鉄の形にしたり、煙の中に小さな鉄を何個も生み出し、ナイフ投げのようにしたりと使い方は様々だ。

 次に、空気砲のように素早く煙を飛ばす弾丸。セカンド・スモークバレットと呼んでいる。銃の中で煙は円形にされ、握りこぶし程の大きさの煙が気体にのって発射される。この弾丸は能力を使わずに撃っても効果はある。致死傷まではいたらないが、ハエ一匹くらいは退治できる程。能力を使ったら本物の銃弾よりも強い威力を持つだろう。

 最後に、一本の糸のように長く、レーザー光線のように煙が伸びるサード・バレット。主に細長い鉄を作る際に使う。公史は高い所に登る際にサードを利用している。この弾丸だけ特別で、使用した煙は戻る仕組みとなっている。例えば、木に登る時公史は木の表面に鉄を差し、トリガーを離すだけで高い木へ登ることができる。

 彼が対象を処刑する際に使うのはファーストで、その方法は残虐性が高いことで近藤からの受けはよくない。

 まず受刑者には袋をかぶせる。風通しが極度に悪い袋を使うのがポイント。被せる時は最初隙間を作っておき、その隙間から銃で煙を充満させていく。風船を入れる容量と同じで、煙で満たされたら袋を縛って空気の出入りを無くす。

 後は公史が能力を使うだけだ。

 処刑された遺体は公史が処理しており、一度も人目に触れられたことはない。

 戒が生まれた時葛藤と同時に公史は芽生えたものがあり、それは希望であった。コンサイバーと人間に共通しているのは心があることだ。特にコンサイバー同士の絆というものを深く感じている公史は、時に感情的になり、処刑者を逃すべきか悩む日もあった。彼は殺し屋という職業が向いていないのだ。感情を殺すことができない公史には。

 戒の能力はアンチコンサイバー。能力を消す。

 公史が殺し屋になったのは、罪を犯したコンサイバーは国が処刑できず、誰も処刑する者が日本にはいないからだ。野放しにしておけば再び犯罪を繰り返す可能性がある。対コンサイバーの組織は存在するが、必ずしも捕らえられるとは限らない。

 一番公史を殺し屋として仕立てている要素は、彼の中にある誇りだ。彼は罪を犯すコンサイバーを面汚しだと考えている。

 とにかく、コンサイバー以外を殺すのは公史の仕事にない。罪を犯したコンサイバーの能力を戒が無くせば、それだけで公史の仕事は無くなる。だから公史は戒の能力を希望だと思った。公史は能力が咲く時を待っていた。

 過去の事と、未来の夢想をしながら公史の昼は終わった。昼の公史は弁護士だ。大企業の中にある法務部で、インハウスローヤーとして業務をしている。公史の仕事は法律の観点で企業にアドバイスするだけであるが、一応公史は正社員でそこそこの給料を得ている。

 『RWD工業』というのが会社の名前で、ロボット作成を主に行っている。

 休憩が終わると同時に休憩室にいる公史はチャイムを聞くこととなる。やや憂鬱なきもちを共有できるのは誰もいない。休憩室には今、公史しかいない。

 チャイムが終わって出ようとしたら、今度は携帯電話が鳴った。仕事の呼び出しだろうか、と公史はだるそうに着信に出た。

「調子はどう?」

(みなと)か」

 近藤は今日は有給を使っていた。戒の様子が気になるから、ということであった。

「こっちの台詞だ。戒の様子は?」

「さっき美味しいオムライスを作って食べさせてくれたわ。すごく美味しかった。今は多分、お昼寝中じゃない? 友達と一緒に部屋に戻っていったけど、大きな声聞こえないし」

「そうか、無事そうでよかった」

 戒の寝顔を想像した。普段は強気な性格で困った子だが、寝る時となればただの女の子に戻る。その姿は可愛いものだった。

「ところで、どうやって戒ちゃんの能力を引き出してあげれば良いと思う?」

 レアだな、と公史は思った。 

 湊は戒と同じように強気な女性であったし、年齢も自分より少し上なので今まで相談をされたことはない。公史は珍しがりながらも、紳士のように相談に乗ることにした。

「能力の開花は、生まれた時に感覚として植え付けられているか、そうじゃなかったら生命の危機が生じた時だから、それしかないんじゃないか。にしても、せっかちだな、お前。もしかしたら、自然に使えるようになる事があるかもしれない」

「私が焦ってるんじゃないわ。ケルヴィンよ」

「あの男か。もう訪ねてきたのか?」

「次会った時に能力を消してくれなかったら、ただじゃおかないって言ってるわ」

「それじゃあ、戒は能力を使えなかったんだな。急ぐようなら、戒に命の危機を体感してもらわなければいけないが……」

 公史は言葉を詰まらせた。万が一能力が不発でも起こせば、戒はそのまま死んでしまう。愛おしい我が子と、希望を一気に失うことになり、莢江も心配だ。彼女は……そう、戒の事を誰よりも大切にしなければならないのだから。

 コンサイバーは全てにおいて等しく、自分に生命の危機が迫っていたら、たとえそれが寝ている時であろうとも自動的に能力が発動し我が身を守ろうとする性質がある。

 戒に命の危機が及べば、戒の中にあるCON細胞が働き能力を発動。そして感覚を得て、次回から使えるようになる……といった算段ではあるが、首を縦に振れるような方法ではない。

「何か良い方法ないかなって」

「寝てる時に能力を使ってを殺そうとする、とか。それなら戒は恐怖を感じずに能力が覚めるんじゃないか」

「眼も覚めないといいけどね。で、それを誰がやるの?」

 戒の能力はCON細胞を殺すこと。戒を殺そうとすれば彼女の脳にあるCON細胞が戒を守るために能力を自動的に発動し、容疑者の能力を消す。

「っていうか、眠りながらやって感覚って覚える物なの?」

「学校とかで、よく授業中寝てるくせしてテストは高得点って奴いなかったか」

「多分それは関係ないと思うわ」

「ジョークだよ。色々とダメだな。俺が戒を殺そうとすると俺の能力が消える。湊もそうだ。莢江や菊元って友達には任せられない。ケルヴィンという男を寝室に入れるとなると、莢江が黙っていないし、何をするか分からない。厄介な話になってきたな」

 廊下側にあるガラス張りの窓が人の姿を写した。休憩室の前は人の通りがあることで、声高らかにこの話はできない。休憩が終わり、棟を移動する人物が多いため特にこの時間は。

「リンボにある、あの剣を使うしかないんじゃないかしら」

 公史は何も言わなかった。

「もう一つね、ちょっとこれも分かんないんだけど、私達以外にももしかしたらコンサイバーを貶める奴がいるかも」

「と、いうのは」

「最近の連続殺人事件、あれ全部犯人違うってことは分かってるわよね」

「仕事が増えて嫌になってる」

 世間一般では連続殺人として報道されている事件だが、あれは全てコンサイバーの仕業だ。奇妙な事に犯人は全員違う。

「岩手のあたりから始まった旅を思い出してくれると分かると思うけど、そこから事件が起きる場所はどんどん下寄りになっていってるの」

 旅、と語るにはあまりにも気楽すぎる。殺人が起きる度に県外であろうとそこに出向かなければならない公史は毎度毎度うんざりしている。一週間に一回程度だからまだマシな方だが。家族に知られないようにするために日帰りにしていることで疲労が溜まる一方、業務の方で最近社員の一人が不正市場競争防止法に引っ掛かることがおきたと相談してきていることで、多忙の日々を送っている。

「人為的だって言いたいんだな」

「そういうこと」

「だが目的が分からないな。コンサイバーを殺害することなら分かるんだが、コンサイバーを煽るだけとなると、また異質だな」

「そうね。とにかく、次事件が起きるとすればまた同じ街になると思うからよく周囲に気をつけてみて」

「はいよ。出張じゃなくて助かる」

 事件は規則的ではないが、一つの県で必ず二回は行われている。次もこの街で起こると予見した湊の根拠はそれだろう。

「今の課題はその二つ。それだけ伝えたわ。あと、あなたは大丈夫? 疲れてそうだけど」

 言葉すら気遣っているようだが、彼女が微笑みを交えた口調でそう言ったせいで真心がそのままとは思えなかった。

「忙しいの大好きさ。ちょっとは誇らしげになれるもんだからな」

「仕事が溜まるってことは、それ無能ってことなんじゃ」

「知るか! 仕事がいっぱい貰えるってことだ。ポジティブにいこうぜ、ポジティブに。とにかく大丈夫だから、戒のことよろしくな。莢江のこともな」

「もちろん。またあとで、続報があったら連絡するわ」

 無能と言われた時の衝撃が余韻を残すが、見かけ上の締まりだけはよく電話が切れた。

 ――コンサイバーを煽っているのは、一体どこのどいつだ。一般的に、コンサイバーと人間を区別する技術は世間にない。表にでない"あの組織"ならとっくのとうに開発しているだろうが、開発したものは一切世の中に出ていない。情報屋から元は得ている。

 他に区別できる物がいるとしたら、それはコンサイバーだ。

 コンサイバー同士ですらお互いが同じ種族であることを区別できないが、例えばコンサイバーを見分ける能力を持っている奴がいたなら人間とコンサイバーの判別がつく。

 裏組織がこの連続殺人事件に関わっているとは思えない。奴らは我々の事を捕らえるならどんな事でもする天敵だが、コンサイバーが表に出そうな情報は世の中に出さない。例えば仮に今回の事件が組織によるものだとしたら、連続殺人事件というセンセーショナルな記事を作ることは全面的に禁止するだろう。

 同種族による行為だということは決定的だ。後はそいつを捕まえるだけだ。

 早急に一連の犯人を捕まえなければならない。組織がコンサイバーから喧嘩を吹っ掛けられたと考え、大変なことになるかもしれない――

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