第四話
「春人君、ウチの泊まってる部屋に来ない? せっかく五年ぶりに会えたのに、腰を据えてお話ししてなかったしょや」
由夏は、涙を流した春人の姿を見て提案した。
「いや、でもそれは……」と春人はためらった。
その言い回しに、由夏は春人の頭に右手を伸ばして彼の髪を掻き乱した。
「ゆ、由夏ちゃんたら、やめてよ」
「ウチと春人君の仲でしょ? ウチに遠慮なんかすんなや」と、由夏は春人に笑いながら言った。
そして由夏は右手を下ろすと、春人の左横に並んで彼と腕を組んだ。
「それでは由夏ちゃん号出発進行!」
由夏は春人の腕を引いて宿泊しているホテルに向かって歩き始めた。
春人は由夏に乱された髪を右手で整えながら歩いた。だが、太くて硬い質の髪はなかなか直らない。
「なに、春人君ったら、まだ髪の毛にコンプレックス持ってるの?」
由夏は春人の髪を見ながら言った。
「うん。本当は母さんみたいなサラサラの髪になりたかったんだけど……受け継げなかったみたいでね」
春人は少し悲しげに答えた。
それを聞いた由夏は春人の心情を察した。
「ウチはステキだと思うよ。知的に見える。『アラン・プロスト』みたいに」
由夏は励ます様に言った。
「ありがとう。でも、僕が『アイルトン・セナ』のファンだってこと知っててわざと言ったでしょ?」
笑みを浮かべながら春人は由夏に文句を言った。
「ふっふっふ、バレたか」
由夏は左手で自分の髪をさらりと掻き上げながら答えた。
ーーーーーー
二人が乗ったエレベーターは、由夏が宿泊する階に停まった。ドアが開いて二人が降りると、由夏が先を歩いて部屋に向かった。
高級ホテルの雰囲気漂う間接照明の廊下に、春人は少し緊張した。
「ここがウチの部屋だよ」
しばらく歩いた所で由夏は立ち止まった。由夏はポケットからカードキーを取り出すと、ドアノブにそれを差し込んで解錠した。
「さあ、入って」
「うん。お邪魔します」
二人が部屋に入ると、正面の大きな窓に目が行った。その窓の向こうには、二人が待ち合わせをした場所が見えた。
由夏はそのままバスルームに入ると洗面台で手を洗った。
春人は窓際のテーブルの上に二人分の昼食が入った袋を置くと、両手をジャケットのポケットに入れて景色を眺めていた。
「高層ビル街を眺める美少年……絵になるね」
バスルームから出てきた由夏が、春人の背後から感想を漏らした。
「そんな、変なこと言わないでよ」と、春人が外を見ながら言うと、徐に振り返った。
春人の視線の先にいた由夏は、脱いだロングカーディガンを右腕にかけて立っていた。白いブラウスにスキニージーンズを身に付け、チャコールのロングブーツを履く姿は、先程までとは違う印象を春人に抱かせた。
「どうしたの? じっと見て。はっ! さてはどうやって脱がそうかと考えていたのね」と、由夏は両手で鼻と口を覆ってふざけて見せた。
「由夏ちゃん、女の子がそんなこと言うもんじゃないよ」
「ごめん、ごめん。それじゃ、ランチにしよう」
「そうだね。手を洗うから、バスルーム借りるよ」
春人がバスルームに入ると、洗面台の鏡に目が行った。鏡に映る自分の姿を見ていると、春人は先程の出来事を思い出した。
春人は蛇口をひねると、石鹸を手に取って泡立てた。そして、石鹸を置くと泡を顔につけて洗い始めた。
両手で顔を擦りながら、春人は由夏と何を話すべきか考えた。話すべきことはわかっていた。けれど、春人はためらいを拭い去れなかった。
春人は両手で水を受けると、顔についた石鹸を洗い流した。
その水の冷たさは、春のものになっていた。
それを感じた春人の心に思いが浮かんだ。
季節が変わる。
もうすぐ十五歳も終わる。
別れもあれば、出会いもある。
それなのに、自分たちはこのままでいいのか……まともな別れさえもできなかった関係で。
春人は両手を洗面台の淵に置くと、濡れた顔を上げ、目を開けて鏡に映る自分の姿を見た。止めていた息を解放しながら、濡れた前髪から水滴がぽつりぽつりと落ちてゆくのを見つめた。
壁にかかっていたタオルをつかむと、顔に当てて水気を拭き取る春人。その暗い視界の中で、春人は覚悟を決めた。
春人がバスルームを出て部屋に戻ると、由夏がテーブルに二人の昼食を並べて椅子に座っていた。
由夏の前には、ラザニアとレモンティー。
春人の席の前には、サンドイッチとサイダー。
「待たせてごめん」と、春人が低い口調で言った。
「全然、待ってないよ。さあ、食べよう」
春人が椅子に座ってサイダーに手をかけると、由夏がレモンティーを持って彼に差し出した。
「それでは、我らの友情に乾杯!」
春人は微笑みながらサイダーを持って乾杯した。
ペットボトルのこもった音が室内に響いた。
「はあっ、それにしても今日は晴れて良かった。お出かけ日和だ」
由夏はレモンティーを一口飲むと、顔を右に向けて外を眺めながら言った。
春人もサイダーを一口飲んでうなずいた。
由夏は春人の様子がさっきとは違うことが気になった。何か思い詰めている、そんな印象を由夏に抱かせた。
由夏はラザニアにフォークで切れ目を入れながら「春人君、どうかしたの? 具合でも悪いの?」と尋ねた。
「いや、具合が悪い訳じゃないんだ。ただ、由夏ちゃんに聞きたいことがあるんだ」
「何さ? ウチの恋愛経験でも知りたいの?」
そう言うと、由夏は笑ってラザニアを口に運んだ。
春人はテーブルの上で両手の指を組んで由夏を見据えた。
「由夏ちゃんさ、本当は……家出して来たんじゃないの?」
春人の問いかけを聞いて、まるで風船がしぼむ様に由夏の顔から笑みが消えていった。
由夏は鼻をひとつすすると、レモンティーを口に含んでナプキンで口を拭いた。そして、しばらく押し黙ると、由夏は外を眺めながら「いつからそう思ってたの?」と小声で聞いた。
「最初は半信半疑だった。突然、由夏ちゃんが一人でこっちに来るのは不思議に思ったけど、ありえないとも断定できないって」
そう言うと、春人も由夏の視線を追った。その先には、さっき二人が待ち合わせた場所があった。
「実はね、さっき由夏ちゃんを待ってた時、小さな女の子が側を通ったんだ。おしゃまな感じが初めて会った頃の由夏ちゃんそっくりだった。それで、その子が父親らしい人に肩車されるのを見かけたんだ」
春人の言葉を聞いた由夏の目付きが一瞬、険しくなったことに、彼は気付かなかった。
「そしたらさ、由夏ちゃんが僕に目隠ししたでしょ。その時、僕らが北海道で暮らしてた頃のことが見えたんだ。フィルムみたいに」
椅子のひじ掛けに右肘をついて、顎に右手を添える由夏。
「そのフィルムの中の弘さんは、絶対に由夏ちゃんに肩車なんかしなかった。万が一でも落ちたりしたら、大怪我するからって」
春人は視線を由夏に向けた。
「それで確信したんだ。そこまで大切に思っている愛娘を、一人で旅行に行かせるはずないって」
由夏は春人の言葉に聞き入っていた。その表情には、どこか安堵が見てとれた。
「ごめんね、春人君。嘘ついて」
由夏はそう言うと、春人に顔を向けた。
「僕のことはいいんだよ。ただ……」
由夏はレモンティーで口を潤すと、姿勢を正した。
「確かに、パパに黙って東京に来たのは事実だよ。たださ、ケンカして家出して来たとか、そういう訳じゃないんだ」
春人は無言でうなずいた。
「実はね、パパは今、ロシアに出張に行ってるのさ。出発したのが昨日の朝で、帰って来るのが四日後の夜なんだ」
「由夏ちゃんも四日後に帰るんだよね?」
「そうだよ。パパがいない間だけ。学校も休みだから」
「そっか」
春人はそうつぶやくと、背もたれに寄りかかった。
「由夏ちゃんが弘さんとケンカするはずないのは察しがついてたよ。でもね、中学生が保護者の承諾なく遠出するのは、家出と同じことだよ。それはわかるよね?」
「わかってる。不良行為だって」
「それじゃ、どうして」
その質問に、由夏は口と鼻を両手で覆って答えを考えた。
春人は急かすことなく、由夏が自分から話すのを待った。
「……偽ることに疲れちゃったの……全てに対して……」
少しこもった由夏の声が室内に響いた。
けれど、その声は春人の心に瞬時に届いた。
「そのことに気づいた時、途端に春人君のことで頭がいっぱいになった。そしたら、もう『会いたい』っていう衝動が抑えられなくなって。それ以来、ずっと会うチャンスを待ってた」
それを聞いて、春人は両肘をテーブルについた。
「それが昨日だったんだね」
「そう。パパに知られない様に、当日まで春人君にも知らせなかったんだ。ごめんなさい、自分勝手で」
由夏は両手を腿に置くと春人に頭を下げた。
「由夏ちゃん、頭上げて。大丈夫だよ」
春人が慰めても、由夏は頭を上げなかった。
由夏の頭から垂れ下がる髪と、震える肩。
日向の右半身と日陰の左半身のコントラストが、春人には痛々しかった。
「由夏ちゃん……」
春人は立ち上がって由夏の左横に寄ると、右手で彼女の頭をそっと撫でた。
「……ありがとう……」
「…………」
春人は敢えて何も話しかけず、由夏の気持ちが落ち着くまで彼女に寄り添い続けた。
由夏は、春人の優しさを黙って受け取った。
二人が休らう部屋に、窓の向こうの高層ビル街の喧騒は届かず、ただ由夏のしのび泣きの声だけがこぼれていた。
「また泣いちゃったよ。変な日だ」
泣き止んだ由夏は、うつむきながらつぶやいた。
「そういう日もあるってことさ」
「ふふっ、そうか」
由夏は春人を見上げると、彼の右手を両手で包む様に触れた。
「もう大丈夫。話して泣いたら、何か吹っ切れた」
「よかった」
由夏が落ち着いたのを見届けると、春人は椅子に腰かけた。
由夏は外を眺めながら大きく息を吸って背伸びをした。
「あー、泣いたら余計お腹すいた! 食べよう食べよう」
春人が言うより先に、由夏はまた食べ始めた。
「そう言えば、明日以降のホテルは予約できたの?」
春人がサンドイッチの封を開けながら尋ねた。
「それがさ、全然見つからなくて。なんとかなると思ってたんだけど」
そう答えた由夏の表情には焦りの色が見てとれた。
春人はサイダーを一口飲むと、少し勇気を出して「それじゃ、僕の家においでよ」と提案した。
由夏はその言葉に驚いたが、すぐに冷静になってそれを受け止めた。
「由夏ちゃんの事情を知った以上、今まで通りとはいかないよ。ましてや、明日の泊まる所も決まってない」
由夏はフォークを持つ手を止めて、春人の言葉に耳を傾けた。
「もし、由夏ちゃんが僕の母さんに気後れしてるなら、その必要はないよ。だから、前に進もうよ」
「そうだね、春人君がそう言うなら」
由夏は思い定めた。
「そうだよ。僕も一緒にいるから」
「わかった。そうする。ただ……ウチが急にこっちに来たって知ったら怪しまれないかな?」
由夏の指摘に、春人は腕を組んで考え込んだ。
「そうだね……じゃ、こうしよう。由夏ちゃんは明日、東京に来ることにして、今日、僕が家に帰ったら母さんにそう話すよ。それで明日から泊めてもらえる様に頼めば大丈夫だよ」
「うん。でも、それだと嘘つくことになっちゃうね」
由夏は後ろめたそうな口調で言った。
「確かに親に嘘をつくなんて良くないことだけど、もう今さら他に策はないよ。それに……」
春人は言い淀んだ。それまで抑えてきたフラストレーションを。
「『今まで散々耐えてきたんだから、ちょっとくらい反抗してもいいべさ』って感じ?」
由夏は感じ取った春人の思いを代弁した。
春人は悲しげに笑いながらうなずいた。
ーーーーーー
由夏と春人は映画館から出ると、新宿の街に繰り出した。
「やっぱり東京だと、『レア』な映画が観られていいね」
由夏は観たかった映画を観賞できた満足感を感じていた。
「そうだね……『ああいうシーン』がなければ……」
春人は"ああいう類い"の映画を女の子と観てしまった恥じらいを感じていた。
「何さ、そんなに過激じゃなかったしょや。一応"R15"だったから問題ないしょ」
「そういう問題じゃないんだよ、由夏ちゃん……」
春人は、由夏の素行がどうなっているのか心配になった。
「でも、やっぱりウチは映画を見終わって映画館から外に出る瞬間が好きだな」
「それって、どういうこと?」
春人の問いに、由夏は両手を後ろに組んで彼に顔を向けた。
「だって、映画の情感を抱いて街を歩くと、違った自分になった気分になるのさ。辛いことも、理不尽なことも、フィルムの中に捨て去って」
「そういう感性、由夏ちゃんらしいね」
「もう、照れること言うなや」
二人は会話しながら駅の方向に歩いていた。
すると、春人は時折、由夏が空を見上げていることに気づいたので、彼も同じ様に空を見上げた。
雲が少しかかる空は、夕焼けの色彩を見せ始めていた。それは同時に、その日の別れが近いことを二人に知らせていた。
翌日にまた会えるとわかっていても、春人は一抹の寂しさを感じた。そうするうちに、春人の心に独占欲にも似た思いが沸き上がった。
例え数分でもいいから、もっと長く一緒にいたい。
例え少しでもいいから、もっと多く思い出が欲しい。
例え一言でもいいから、もっと沢山話したい。
「ねえ、春人君。ここに寄らない?」
思いをめぐらせていた春人に、由夏が話しかけた。
由夏が指差す先には、ゲームセンターがあった。
春人にとってゲームセンターは滅多に行かない場所だったが、今の彼には、その提案を断る理由はなかった。
「いいよ。入ろう」
二人は賑やかなゲームセンターに入った。
「春人君、覚えてるかな? ウチの家の近くにも大きなゲームセンターがあったの」
由夏はゲーム機を見回しながら春人に問いかけた。
「あったね。新札幌のショッピングモールに。二人でよく遊んだね」
春人はその時のことを思い出した。
「由夏ちゃんはクレーンゲームが好きだったよね。ぬいぐるみをいつも欲しがってた」
「そんな子供っぽいこと、思い出さなくていいよ」
「そう言うけど、実は今でも好きなんでしょ?」
春人の質問に、含み笑いをしながら由夏はうなずいた。
「よし! 久しぶりにやってみよう」
春人がそう促すと、二人はクレーンゲームに向かった。
「ここでやろう。どれが欲しい?」
ぬいぐるみが景品のブースの前で、春人が由夏に尋ねた。
「それじゃ、あのピンクのうさちゃん」
「あれだね。絶対に取る!」
春人は百円玉を投入すると、矢印が光るボタンを押した。
ゆっくりと動くクレーンは、春人が狙った場所より少し手前で止まった。クレーンは自動でぬいぐるみに向かって下りてそれをつかもうとしたが、バランスが悪く途中で落ちてしまった。
二人はそろって残念がったが、気を取り直して二回目に挑もうとした。
その時、春人のスマートフォンに電話がかかってきた。
春人は、昨日の同じ頃に綾子から電話があったことを覚えていた。春人が画面を見ると、案の定、綾子からだった。
「母さんから電話だ。由夏ちゃん、悪い、外で話してくるよ」
春人がそう告げると、由夏は右手を開いて彼を見送った。
春人は急いで路上に出て、画面の「通話開始」を押した。
「もしもし、母さん」
「もしもし、春くん。今、どこにいるの?」
その質問に、もうこれ以上、嘘をつきたくないと春人は思った。
「最初は御茶ノ水に行ったんだけど、やっぱり欲しい物がなかったから、新宿でもう一回探そうと思ってね。だから、今は新宿の……駅の近くにいるよ」
春人は精一杯の正直を言った。
「そうなんだ。でも、もうすぐ暗くなるから、早く帰っておいでよ」
「わかった。気を付けるよ。あと、それでね、帰ったらさ、母さんにね、話すことがあるんだよ、実は……」
春人は緊張のせいで、思った様に口が動かなかった。
「うん。電話じゃ話せない大事なことなんだね。わかったよ。夕御飯作って待ってるからね」
「ありがとう。もうすぐ帰るからさ。それじゃまた後で」
春人は電話を切ると、気疲れから目を閉じて深呼吸をした。
春人が目を開くと、暗くなったスマートフォンの画面に夕陽が反射していた。
それを見た時、春人はふいに嫌な予感がした。普段なら見とれたり、感傷的になるそれが、早くこの場を離れるよう忠告している様に見えた。
不安に駆られた春人は、急いで由夏の所に向かった。
ゲームセンターの中は二人が来た時よりも混雑していて、そのことが、ゲーム機や来店客をすり抜ける春人の気持ちをさらに切迫させた。
そして、由夏が待つクレーンゲームが見える位置に春人が差しかかった時、彼の足は止まった。
そこからは、由夏がスーツ姿の四十代位の女性と話しているのが見えた。
春人には、その女性が由夏に何かを促している様に見えた。
由夏は観念した様子で、財布からガード状の物を取り出して女性に見せた。
それを確認した女性は、それまでとは変わって由夏に質問する態度に変わった。
由夏の表情は明らかに不安そうだった。
由夏のその表情に、春人は居ても立っても居られず、彼らの元に歩み寄った。
すると、春人に気づいた由夏が手でこっそりと「こっちに来るな」という仕草をした。
嫌な予感が現実になったと春人は直感した。けれど、由夏の意思に構わず春人は歩き続けた。
由夏は悲愴な顔つきで、春人が近づいてくるのを認めた。
「由夏ちゃん!」
春人は歩きながら声をかけた。
しかし、由夏は春人を見ようとしなかった。
一方で、由夏に質問していた女性は春人に目を向けた。その観察眼は、一般人のそれではなかった。
「由夏ちゃん、何かあったの?」
春人はそう尋ねると、由夏の横に立った。
「こちら、警察の方ですって」
由夏は覇気のない声で説明した。
「警察……」
春人がそう言うと、女性は春人に記章の付いた警察手帳を呈示した。
「長谷川さん、あなた、さっきは一人で新宿に来たって言ってたよね?」
警察官が由夏に質問したが、彼女は何も答えなかった。
「あの、僕は伊藤春人と申します。今、身分証を見せます」
春人は財布から身分証を出して呈示した。
警察官はそれを手に取って確認した。
「伊藤春人さん、横浜の方ね。あなたたちはお友達なの?」
警察官が春人に質問すると、彼は口ごもった。
「……その……僕たちは……」
すると、隣の由夏が春人の手をそっと握った。そして、春人に代わって口を開いた。
「私たちは……兄と妹です……義理ですが……」
第五話に続く。