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さあ! 仲間と共に冒険の旅へ出かけよう!  作者: 上見 士郎
クレシェンテ編
17/29

17


 ライアット卿とカナタが何者かを追って森へ入って行った後、

ドリスはまずはマーディへ蘆薈(ろかい)の魔法をかけてその傷を癒した。


 吹雪が申し訳なさそうにその様子を見守る。

「ごめんなさい、マーディさん。あたしが未熟なせいで……」


「大丈夫、大丈夫。君は良くやってくれてるよ。

もちろん、ドリスもね」

 吹雪が彼に謝罪したのは、自分の戦う相手に夢中になって

マーディへの援護が遅れた事だ。


 嫌味でなく吹雪にそう笑いかけた後、

マーディは治療してくれたドリスに礼を言った。

 そして、短刀を手にカナタが眠らせた狼に止めを刺すべく立ち上がる。


 ドリスは続いて吹雪の傷を癒すべく蘆薈の発動準備にかかった。

 彼女の気力はこれで残り僅かだ。

 吹雪に使った後、もう一回蘆薈が使えるかどうかという所であろう。

 もはや野宿用の獣返し(ししがえし)すら使えそうになかった。


「うっ……」

 マーディの呻き声にドリスと吹雪は彼のいる方に視線を向けた。


 横たわる狼の前でマーディが短刀を手にしたまま棒立ちになっていた。

 よく見るとその狼の前に五匹の小さな子供の狼が立ちはだかり、

マーディに向かって懸命に牙を剥き出し威嚇している。


「参ったな……。こういうのやりにくいんだよな」


 蘆薈をかけ終わったドリスと吹雪も歩み寄る。

 やせ細った貧相な子狼たちの必死な姿が、

よりマーディに行動を躊躇わせているようだ。


「この狼の子供かしら?」

「近くに隠れてたのかな?」

 マーディの背後から二人は顔を覗かせた。


「よし、吹雪! トドメは任せた!」

 マーディは手にした短刀を吹雪に押し付ける。


「え!? やだよ! 勘弁だよ!」

 吹雪は慌てて彼の短刀を押し返す。


「なら、ドリス。頼んだぞ!」

「えー!?」


「もう、このまま放っておこうよ」

 吹雪が提案する。


「起きて襲ってきたらどうするんだ?」


「その時は仕方ないから、また倒せばいいじゃない」

 ドリスも吹雪に加勢する。

「一匹くらいなら私たち三人でもなんとかなるよ」


「逃げたらどうするんだ?」

 納得しかねる様子のマーディ。


「そうなってくれるのが一番良いと思う」

「五百グランだぞ!?」

「いいじゃない、それくらい! 

なら、マーディがやってよ! 私その分の取り分いらないから!」


「二人とも声大きいよ! 狼、起きちゃうよ!」


 二人が寝ている狼の前でわいわい騒いでいると、

果たして吹雪の警告が現実となってしまった。


 眠っていた狼が目覚め、むくりと起き上がったのだ。

 その狼は五匹の子狼と共に、三人に牙を剥いた。

 カナタのマジックミサイルを食らってはいるものの、

まだまだ充分戦えそうだ。

 しかし、先程までの様子と少し違い、今は前に出て

子供を守るために戦おうとしているように見える。


「あーあ、言わんこっちゃない」

 吹雪は再び木刀を構えた。


「いやいや、自分だけは悪くないみたいな言い方してない?」

 マーディも短刀を構える。


 その直後、

 森の中からもう一匹の狼が静かに現れた。


 今まで見たどんな狼よりも大きく、美しい灰色の毛並みの

不思議な威厳に満ちた狼だった。


 三人に一斉に緊張が走る。

 この狼を相手にするのは危険だと本能が告げている。


 その巨大な狼は後ずさる三人と、

身構える狼たちの間にゆっくり割り込むと、

三人に向けてその大きな口を開いた。


「わたくしはあなた方の敵ではありません。

どうか武器を収めては頂けませんか?」

 

 言葉は確かにその狼から発せられていた。

 そうとしか見えなかった。


 唖然とする三人。


 その狼の額には小振りな魔宝石らしきものが埋め込まれている。


 普通の狼より一回りも大きいその狼は

続いて、親子の狼たちを振り返った。

 その狼の出現に尻尾を垂らして萎縮している親狼。

 子狼たちもおとなしくなっている。


 巨大な狼が何事か伝えたのか、

彼らはその場に伏せてじっと動かなくなった。


 それを見届けた後、

ドリスらと戦って死んだ狼たちの亡骸を見て回る巨狼。

 鼻先で亡骸の匂いを確認している。その瞳はとても悲しげに見えた。


 カナタの小刀や兜のツノに刺し貫かれて息絶えたものたち。

 マーディの石縋(メイス)に頭骨を粉砕されて息絶えたもの。

 胸や腹に矢を受け、吹雪の木刀に額を割られて息絶えたもの。


 ドリスの倒した狼の前で巨狼の動きは止まった。


「この者はまだ助かる見込みがあります。襲われたあなた方に

このような事をお願いするのは、身勝手極まりない事とは存じますが、

どうかこの者を救ってやっては頂けませぬか?」

 狼は顔を上げ、真っ直ぐドリスを見つめている。

 彼女が蘆薈を使っていたのを見ていたのかも知れない。


「どうかお願いします。無力なわたくしに代わり、

この者を助けてやって下さい」


 その物言いがあまりに真に迫っていて、ドリスは思わず頷いていた。

 自分の倒した狼の元に歩み寄り、

残った最後の気力を振り絞って蘆薈を発動させる。


「おい、ドリス……」

 彼女の行動にマーディの咎めるような口ぶり。


「あなたが懸念するのも無理からぬこと」

 ドリスの真横で巨大な狼はマーディに向けて悲しげに言った。

「ですが、わたくしめを信じては下さいませんか?

この先、わたくしも含めて決してこの者らに、

あなた方への手出しはさせませぬ」


 マーディは沈黙せざるを得なかった。


 やがて、ドリスの蘆薈に癒され、狼は意識を取り戻した。

 全快とまではいかなかったのか、目の前のドリスに警戒し、

懸命に立ち上がろうと足をふらつかせる。

 巨大な狼はその狼を安心させるように優しく舌で毛づくろいをし、

その場に伏せさせた。

 しばらく休んでいろという意思表示であろうか。


「ありがとうございました。何とお礼を申し上げて良いのやら」

 巨狼はドリスに向けて深く頭を垂れた。


「いえ……それより、あなたは何者なんですか?」


 ドリスの問いに狼は彼女の目をまっすぐ見つめて言った。

「わたくしはこの者らの長でした。

かつては狼の女王などと呼ばれておりました。今ではすっかり落ちぶれ、

ただ言葉を話せるだけの狼に成り果てておりますが……」


「この街道で狼に人々を襲わせていたのはあんたではないんだな?」

 マーディが尋ねる。

「どういう事なのか説明してくれないか?」


「わかりました。すべてお話します」

 狼の女王は語りだした。


 ここより遥か南の森。すなわちエミスフェーロ北の広大な森は

マルールとゴブリンと女王率いる狼の三つの勢力が互いに共存、

時に小競り合いしつつもある程度は平穏に暮らしていた。


 そこへエミスフェーロから強大な力を持つ一人の魔法使いがやって来た。


 彼女が魔法の研究の為に森の奥に住処を構えると、

強きものに靡き易いゴブリンたちが真っ先にその傘下に下った。


 彼女はとある魔道具の研究開発をしていた。

 それは特定の生物を複数同時に操るというかつてない強力な代物だった。


 最初にその特定の対象に選ばれたのが狼だった。

 狼たちは彼女の魔法やゴブリンたちの罠にかかって次々と捕らえられ、

儀式によって半永久的な隷属を強いられた。


 それを可能にしたのが彼女の研究開発によって生み出された

『見えざる鎖と鞭』と名付けられた首飾りだった。


 抵抗虚しく女王も捕らえられたが、

非常に賢かった女王は魔法使いに気に入られた。

 額に魔宝石を埋め込まれ、言葉を話せるのみならず、

あらゆる言語に精通するという望みもしない力が与えられた。

 通訳に適した側近として重用されたのだ。

 女王にとっては腸が煮えくり返るような思いだったが、

機会が訪れることを願って埋伏の毒に徹した。


 次いで魔法使いは一部のマルールたちをも取り込み、

彼らを隷属させる首飾りの開発にも成功した。

 だが、これにより

それまで静観していたその他多くのマルールたちの怒りを買う。


 面従腹背で魔法使いに従ってきた狼の女王は彼らと結託し、

多大な犠牲を払いつつも首魁にして元凶たる魔法使いの命を奪うことに成功した。

 魔法使いに従ってきたゴブリンたちも命からがら森から逃げ出した。


 狼の女王にとって大きな誤算だったのは、

ゴブリンたちが首飾りと共に隷属した狼たちを従えて逃げてしまったことだった。

 しかも、隷属させる儀式の秘法まで携えて。


 女王はマルールたちにゴブリンたちを追撃するよう懇願したが、

マルール側にも大きな問題が発生していた。

 人間に深い憎しみを抱く一人のマルールが同族を支配する首飾りの力を利用し、

部族に対しクーデターを起こしたのだ。


 狼の女王やゴブリンのボスと共に魔法使いの側近となった彼は、

狼の女王同様、面従腹背で従っていた。

 事に際し、魔法使いに対して反旗を翻したものの、それは人間憎しの一念と

それを成就させる野心の為でもあった。

 かくして彼はマルールの部族の新たな王として君臨し、

狂ったようにエミスフェーロへの攻撃に躍起になる。


 狼の女王は仕方なく残った僅かな狼たちを率いてゴブリンたちを追った。

 そしてクレシェンテ北のこの森で今に至るという経緯であった。


「あの森でそんなことが……」

 ドリスは絶句した。


「マルールがエミスフェーロに襲撃を繰り返すようになったのは

そういう事情があったんだね」

 吹雪も衝撃を受けていた。


「落ち延びたゴブリンがその首飾りの力を使って狼を操り、

この街道で悪さをしていることはわかった」

 マーディは冷静に事実を受け止めていた。

「その首飾りは具体的にどれほどの性能なんだい?」


「そうですね……」

 女王は森に視線を向けた。

「わたくしの仲間かあなた方のお仲間が、そろそろ現物を持ってきて下さるはず。

ここにいつまでも留まるのは危険です。休める場所へご案内致しますので、

続きはそこでお話し致しましょう」


 その言葉が終わらぬうちに、森の中から二匹の狼が飛び出してきた。

 思わず身構えるドリスたち。


 続いてカナタとライアット卿が茂みを掻き分けて戻ってきた。

「やっと帰って来れた! 何が物覚えが良いや! 

狼が道案内してくれへんかったら完全に迷っとったやないか!」


「うっせーよ! マントのあった場所までは覚えてただろ!」


 口論していた二人はその場の状況に気づいて目を丸くした。

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