私は妖精の取り替え子だったけど、家族に愛されています
ディーハロイム公爵家の人間は美しい。
それが貴族の中で常識だった。
だが、長女であるアリーシャは平凡であった。美しい両親から生まれたはずなのにだ。
長男、次女は美しく、アリーシャだけが赤の他人のようであった。
だが家族はアリーシャを愛した。それがアリーシャにとって救いであった。
平民の孤児に美しい娘がいると噂を聞くまでは。
その娘は次女にそっくりであると。
それは両親の耳にも届き、そして判明した。
アリーシャと平民で孤児である娘は妖精の取り替え子であると。
アリーシャは、やっぱりね、と思う。
「あたしの名前はエミーって院長が付けてくれたんです」
優雅に紅茶を飲むディーハロイム公爵家の当主である、ウィリアムの前で、エミーは音を立てながら紅茶を飲む。
そのウィリアムの隣には微笑む妻のサラが座り、両隣には長男のベンジャミンとアリーシャの隣には次女のアンリエッタが座っている。
「これであたしも貴族令嬢かぁ」
しみじみに言うエミーにアリーシャはますます顔を伏せる。
「ドレスに宝石にお菓子にーー」
「君を引き取るつもりはないよ」
夢を語るエミーにウィリアムがにこやかに言った。
エミーは目を丸くし、アリーシャは顔を上げてウィリアムを見た。
「どうして!? あたしはこの家のあなたたちの本当の娘ですよ!?」
「うん。いらない」
「どうして!? どうしてですか!?」
「だって君、子供を生んでいるよね?」
ウィリアムの言葉にアリーシャとエミーが驚く。アリーシャは驚かないベンジャミンとアンリエッタを見る。サラは相変わらず微笑んで何を考えているのか分からない。
「それに今も子供の父親とは別の男性と付き合っているよね?」
「それはそのっ」
エミーは言葉に詰まる。
「貴族だからね。たとえ君が私の本当の娘だろうが調べるよ。それで君はいらない。さあお帰りを」
ウィリアムは近衛騎士を呼ぶ。
「お客様がお帰りだよ」
近衛騎士は抵抗するエミーを連れていく。
ウィリアムは紅茶を飲む。
(本当の娘ならば引き取りたかったが、あれは駄目だ。貴族は時には家を守るためには冷酷にならなければならない)
呆然とするアリーシャをウィリアムは目をやる。
(それに比べてアリーシャは公爵家の令嬢として育ってくれた。今時平民を養女にするのは珍しいことじゃない)
「お兄様が異常者でなくてよかったですわ」
アンリエッタはホッとする。
ベンジャミンがアリーシャの手を持ち上げると、そっと唇を落とした。アリーシャは突然のベンジャミンの行動に混乱する。
「好きなんだ。愛してるんだ。私の婚約者になってほしい」
「え!?」
「あらまあ」
サラはにこにこと微笑ましそうに笑う。
「お兄様ったら、お姉様に届く縁談の書簡を暖炉に焼べていたのよ」
「え!? そうなの? 私が平凡だからないばかりだと思っていたわ」
「とんでもないですわ。頭はいいしマナーも完璧。そういう所を見ている殿様にとってお姉様は人気なのですのよ」
「知らなかったわ」
「お兄様が殿様を千切っては投げ千切っては投げていたからですわ」
「そうなの?」
呆然とアリーシャはベンジャミンを見る。
「お兄様は私が妖精の取り替え子だと知っていたの?」
「知らなかった。だからずっと言い出せなかったんだ」
また指先にキスをするベンジャミンに、アリーシャは顔を赤らめるのだった。




