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A5サイズのジップロック~致死量の絶望を飲み干して、ただ只管に生き延びた記録~  作者: 1129


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第6話:ピザの耳と、タンスの中のショーケース


「ちーたん」



まだ舌足らずな声で私の名前を呼びながら、妹がよちよちと歩いてくる。


ある日、母がビデオカメラを回し、私も撮影する側として参加した時だった。ファインダー越しに、満面の笑みで私に向かってくるその小さな姿を見た瞬間、私の中に強烈な感情が湧き上がった。


「命に代えても、この子を守らなければ」


私は、彼女の小さな母になった。

ぶどうを食べる時は、私がすべて皮を剥き、中身は妹が食べた。

大好物のエビも、私が殻を剥き続けた。

ピザトーストを食べる時は、妹が真ん中のチーズとパンの部分だけを食べ、残った硬い耳の縁取りを私がご飯として食べた。

母に何か言われたからではない。

私にとっては、自分よりも尊いその小さな生き物を守ることが、ただただ幸せだったのだ。

しかし、そんな私のささやかな幸せとは裏腹に、家の中の空気は日に日に歪んでいった。


発端は、妹のプリンを弟が勝手に食べてしまったという、兄弟間ではよくある些細な事件だった。

怒った妹に弟が謝り、新しいプリンを買ってきて、自分の名前を書いて冷蔵庫に入れた。


仕事から帰宅したしんちゃんがそれを見て、

「俺は好きなものも食ってはいけないのか!」

と烈火のごとく怒り出し、母との大喧嘩に発展したのだ。子供心に「この人はアホなのだろうか」とぼんやり眺めていたが、これを機に家計が完全に分断された。

冷蔵庫の中身には各自の名前が書かれるようになり、「私のもの」「俺のもの」という明確な線引きが日常になった。


しんちゃんはなぜかいつもお金がなく(パチンコが原因だろう)、お茶さえない中でカップラーメンにお湯を注いですすっていた。

そのすぐ横で、母は優雅にワインを飲んでいる。

そんな異様な光景が、私の家の「普通」になっていた。


ワインを飲んだ母の、私への長い愚痴の儀式は相変わらず続いていた。

しかし、酔いが深まると、母の口から思いがけない事実がこぼれ落ちるようになった。


母としんちゃんは、父と結婚していた頃から関係を持っていたこと。

しんちゃんは極道の父に助けられた人間だったこと。

暴力団員の父には親権が渡るはずもなく、そもそも父は一度も母に手をあげていなかったこと。

自分が助けた男と妻が不倫していた怒りで、一度だけ手を振ってしまったこと。


そして。

「いつもお金がない」と言っていた母の元に、父から毎月十五万円もの養育費が振り込まれており、私の高校の学費も定期代も、すべて父が出してくれていたということ。


じゃあ一体、そのお金はどこに消えていたのか?


私は、母としんちゃんの部屋にある、幅百センチほどの2つの背の高い観音開きのタンスの前に立った。

左側のタンスの観音開きを勢いよく扉を開ける。


左側の棚には、ヴィトンやシャネル、グッチの鞄や財布、靴が、まるで高級ブティックのショーケースのようにびっしりと、そして整然と並べられていた。

右側のハンガーには、クリーニングの袋に包まれた毛皮のロングコートや本革のジャケット、色とりどりの高級スーツがぎちぎちと詰まっている。

さらにその下、隙間にぴったりと挟まるように置かれた大きなアクセサリーボックスの引き出しを、上から順番に開けていく。

中には、金、プラチナ、大きな宝石のついた指輪やネックレス、ピアスが、狂気的なほどの几帳面さで詰まっていた。

母は「ダイヤ」が好きだった。

ダイヤとスワロフスキーの違いすらわからない私から見ても、そこはまぎれもない巨大な金庫だった。

私たちが毎年お正月にもらい、「二十歳になったら渡してあげる」という母の言葉を信じて素直に渡していたお年玉。

私がアルバイトで汗水流して稼ぎ、「借金の足しにして」と渡していたお金。

それらはすべて、このタンスの中に、「物」として詰まっていたのだ。


母に裏切られていた。

私はしばらくその場に呆然と立ち尽くした。

基本的には

月曜朝、木曜夜投稿です。


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