ある予言者の末路
今は昔。
悲惨な時代があった。
人々は攫わられ、見知らぬ土地で死ぬまでこき使われる。
食事どころか水もほとんど出されず、怪我をしようが病になろうが休息を与えられず、明かりのない夜になってようやく仕事にならないので舌打ちと共に休息を与えられる。
そんな時代。
そんな場所に。
「俺は未来から来た」
後に名を遺す予言者の少年がいた。
「未来から来たから未来の話をしてやろう」
少年は疲れ切った人々にそう語った。
「俺の居た時代には寒さに凍えることはなかった。温かな風を吹かせる仕掛けがあらゆる場所にあったんだ」
多くの人々は始めは彼を無視していたが、何分娯楽らしい娯楽が何一つない場所だ。
幾人かはそれに付き合い始めた。
「なら、暑い日はどうするんだ」
「あー、暑い日か。暑い日なら、その仕掛けは涼しい風を吹かせるんだ」
「なんじゃ、そりゃ」
バカみたいな話に人々は笑う。
即興で作っていることなど丸分かりだ。
「そんなもんより先に飯が腐らない仕掛けはないのかい」
「もちろんあるとも肉や野菜が腐らないように雪で出来た箱があるんだ」
「なら、なんでその箱はとけないんだい」
「あぁ、それは。あー、それは……」
少年が答えられずにいると別の者が言った。
「馬鹿か。この時代と一緒にすんな。大方、とけない仕掛けがしてあるんだろうさ」
「そうそうそうそう! 仕掛けだ! 仕掛けがあるんだよ! よくわかったな!」
バカバカしい話だ。
仕掛けという言葉を免罪符に様々な話を語るなんて。
だが、荒唐無稽だからこそ人々は夢中になった。
「どれだけ離れていても関係ねえ。声を聴く手段があるんだ。話す手段があるんだ。どんな場所にでも」
「未来でも声や話だけかい。どうせなら実際に会いたいもんだ。故郷のおっかさんに」
「もちろん会えるとも。だけど、声は人が走るより早いだろ?」
ただの気晴らしだ。
現実から逃れるための。
「馬よりも早いものに皆が乗っていた。おまけに馬と違って怪我もしねえし病気にもならねえ。それどころか、何人もが一度に乗れるんだ」
「それじゃ、馬なんて誰も乗らねえじゃねえか」
「あぁ。実際、俺の時代には馬に乗るやつはほとんどいなかったさ」
細やかな楽しみだ。
眠りに落ちる前の。
しかし、この時代は悲惨な時代。
この場所は恐ろしい場所。
予言者の少年はいつの間にか死んでしまっていた。
――だが、少年が死んでもこの馬鹿話をするものは消えなかった。
「なぁ、他にはどんなものがあったと思う?」
ただの気晴らしだ。
現実逃避だ。
しかし、そんな逃避が悲惨な時代から人々の心に僅かな生きる力を与えていた。
誰もが嘘だと知りながら。
***
そして、現代。
悲惨な時代が遥か昔に終わった時代。
技術の進歩により、少年の言葉が嘘ではなかったことが毎日のように証明されている。




