第九話 見えないはずのものを見る女
夕方の街は、昼よりも落ち着きがない。
仕事を終えた者と、仕事を探す者がすれ違い、視線だけが忙しく行き交っている。
宿の裏手。
人通りの少ない路地で、俺は壁にもたれ、いつものように表示を確認していた。
【間接依頼:増加中】
【成功率:安定】
【未観測要素:検出】
夕方の街は、昼よりも落ち着きがない。
仕事を終えた者と、仕事を探す者がすれ違い、視線だけが忙しく行き交っている。
宿の裏手。
人通りの少ない路地で、俺は壁にもたれ、いつものように表示を確認していた。
【間接依頼:増加中】
【成功率:安定】
【未観測要素:検出】
最後の項目に、わずかに眉をひそめる。
「アルト」
隣を歩いていたリナが、急に足を止めた。
「……あの子」
指差す先。
路地の奥に、一人の少女が立っている。
フード付きのローブ。
背は低く、細い。年齢は十代前半くらいか。
だが――視線が合った。
正確に、こちらを見ている。
偶然じゃない。迷いもない。
表示が、出ない。
「気づいてるね」
リナが小声で言う。
「ああ」
普通なら、ここには目を向けない。
向けたとしても、気づかれない。
少女は、こちらに向かって歩き出した。
足取りは軽いが、警戒の色はない。
「あなたが、アルト」
断定だった。
質問じゃない。
「そうだ」
「よかった。
人違いだったら、帰るところだった」
嫌な前置きだ。
遅れて、表示が浮かぶ。
【観測者:未登録】
【特性:干渉耐性】
【予測参照:不可】
……厄介。
「占い師?」
リナが聞く。
「違う」
少女は即答した。
「私は、見えるだけ」
「何が」
「未来の欠け方」
言い回しが気に入らない。
「あなた」
少女は俺を見る。
「そのやり方、長くは続かない」
リナが反応する前に、俺が口を開く。
「理由を言え」
「世界が、変わり始めてるから」
抽象的だが、的外れではない。
「街の外にね」
少女は地面を指差す。
「あなたの数字が、意味を持たない場所が生まれてる」
表示の“未観測要素”と一致する。
「そこで何が起きる」
「人が死ぬ」
即答。
飾り気がない。
「選択を間違えた人から、順番に」
リナが腕を組む。
「それを、私たちにどうしろって?」
「記録して」
少女はそう言った。
「予測じゃなく、結果を」
俺は黙り込む。
それは、今の立ち位置を捨てるという意味だ。
「私は、お願いしに来たわけじゃない」
少女は一歩下がる。
「あなたが、逃げないかを見に来ただけ」
「逃げたら?」
「もっとひどい人が、代わりに行く」
現実的すぎて、反論できない。
風が吹き、路地に埃が舞う。
街の音が、少し遠くなる。
リナが、俺を見る。
「どうする?」
表示が浮かぶ。
【分岐点:発生】
【選択肢:観測範囲拡張】
【リスク:高】
俺は、息を吐いた。
「今は答えない」
少女は、少しだけ笑った。
「それでいい」
「また来るのか」
「来る」
短く言って、踵を返す。
「気が変わったら、探さなくていい」
「どういう意味だ」
少女は振り返らないまま言った。
「その時は、
あなたのほうが、私を見つけられるから」
路地の奥に、姿が消える。
リナが肩をすくめた。
「面倒ごと、確定だね」
「ああ」
だが――
これは逃げられない種類のやつだ。
使われない位置に立ち続けるなら、
いずれ、踏み込まなきゃならない場所がある。
問題は、いつだ。
【観測フェーズ:拡張待機】
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