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追放されたので世界の仕様書を読むことにした  作者: harap1239


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第九話 見えないはずのものを見る女

 夕方の街は、昼よりも落ち着きがない。

 仕事を終えた者と、仕事を探す者がすれ違い、視線だけが忙しく行き交っている。


 宿の裏手。

 人通りの少ない路地で、俺は壁にもたれ、いつものように表示を確認していた。


【間接依頼:増加中】

【成功率:安定】

【未観測要素:検出】



 夕方の街は、昼よりも落ち着きがない。

 仕事を終えた者と、仕事を探す者がすれ違い、視線だけが忙しく行き交っている。


 宿の裏手。

 人通りの少ない路地で、俺は壁にもたれ、いつものように表示を確認していた。


【間接依頼:増加中】

【成功率:安定】

【未観測要素:検出】


 最後の項目に、わずかに眉をひそめる。


「アルト」


 隣を歩いていたリナが、急に足を止めた。


「……あの子」


 指差す先。

 路地の奥に、一人の少女が立っている。


 フード付きのローブ。

 背は低く、細い。年齢は十代前半くらいか。


 だが――視線が合った。


 正確に、こちらを見ている。

 偶然じゃない。迷いもない。


 表示が、出ない。


「気づいてるね」


 リナが小声で言う。


「ああ」


 普通なら、ここには目を向けない。

 向けたとしても、気づかれない。


 少女は、こちらに向かって歩き出した。

 足取りは軽いが、警戒の色はない。


「あなたが、アルト」


 断定だった。

 質問じゃない。


「そうだ」


「よかった。

 人違いだったら、帰るところだった」


 嫌な前置きだ。


 遅れて、表示が浮かぶ。


【観測者:未登録】

【特性:干渉耐性】

【予測参照:不可】


 ……厄介。


「占い師?」


 リナが聞く。


「違う」


 少女は即答した。


「私は、見えるだけ」


「何が」


「未来の欠け方」


 言い回しが気に入らない。


「あなた」


 少女は俺を見る。


「そのやり方、長くは続かない」


 リナが反応する前に、俺が口を開く。


「理由を言え」


「世界が、変わり始めてるから」


 抽象的だが、的外れではない。


「街の外にね」


 少女は地面を指差す。


「あなたの数字が、意味を持たない場所が生まれてる」


 表示の“未観測要素”と一致する。


「そこで何が起きる」


「人が死ぬ」


 即答。

 飾り気がない。


「選択を間違えた人から、順番に」


 リナが腕を組む。


「それを、私たちにどうしろって?」


「記録して」


 少女はそう言った。


「予測じゃなく、結果を」


 俺は黙り込む。

 それは、今の立ち位置を捨てるという意味だ。


「私は、お願いしに来たわけじゃない」


 少女は一歩下がる。


「あなたが、逃げないかを見に来ただけ」


「逃げたら?」


「もっとひどい人が、代わりに行く」


 現実的すぎて、反論できない。


 風が吹き、路地に埃が舞う。

 街の音が、少し遠くなる。


 リナが、俺を見る。


「どうする?」


 表示が浮かぶ。


【分岐点:発生】

【選択肢:観測範囲拡張】

【リスク:高】


 俺は、息を吐いた。


「今は答えない」


 少女は、少しだけ笑った。


「それでいい」


「また来るのか」


「来る」


 短く言って、踵を返す。


「気が変わったら、探さなくていい」


「どういう意味だ」


 少女は振り返らないまま言った。


「その時は、

 あなたのほうが、私を見つけられるから」


 路地の奥に、姿が消える。


 リナが肩をすくめた。


「面倒ごと、確定だね」


「ああ」


 だが――


 これは逃げられない種類のやつだ。


 使われない位置に立ち続けるなら、

 いずれ、踏み込まなきゃならない場所がある。


 問題は、いつだ。


【観測フェーズ:拡張待機】

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