第八話 増える声、変わらない位置
朝から、街がうるさい。
宿の一階。
まだ昼前だというのに、人の出入りが多い。扉が開くたび、外の喧騒と埃っぽい空気が流れ込んでくる。
「完全にバレたね」
朝から、街がうるさい。
宿の一階。
まだ昼前だというのに、人の出入りが多い。扉が開くたび、外の喧騒と埃っぽい空気が流れ込んでくる。
「完全にバレたね」
リナがカウンターに肘をつきながら言った。
視線の先には、こっちをちらちら見てくる冒険者たち。
「昨日の件だな」
「うん。
“鋼尾を生かした後ろの男”」
言い方が最悪だ。
「噂って、ほんと広がるの早いよね」
そう言いながら、リナは楽しそうだ。
こういう注目は嫌いじゃないらしい。
その時、表示が重なって浮かび始めた。
【間接依頼:3件】
【相談希望:2件】
【成功率平均:低】
……一気に来たな。
「ねえアルト」
「言うな」
「全部断る?」
「選ぶ」
即答。
無差別に助ける気はない。
最初に近づいてきたのは、二人組の若い冒険者だった。
装備は新しいが、動きが固い。緊張が顔に出ている。
「す、すみません」
「簡潔に」
言葉を選んでいる暇はない。
「次の遺跡探索で、仲間が死ぬか知りたくて……」
またそれか。
だが、目は真剣だ。
表示を見る。
【遺跡:旧水路】
【死亡予測:高】
【原因:判断遅れ】
「答えは?」
リナが横から覗き込む。
「死ぬ」
即答。
空気が凍る。
「でも」
一拍置く。
「全滅じゃない」
二人が息を飲む。
「入口で揉めるな。
決断を一人に集中させろ」
「それだけで……?」
「それだけでいい」
彼らは何度も頭を下げて去っていった。
「はい一件終了」
リナが指を一本立てる。
「楽勝だね」
「楽ではない」
次に来たのは、見慣れた顔だった。
鋼尾の一人。今度は単独だ。
「また来たの?」
「文句言いに来た」
リナが笑う。
「冗談だ」
男は苦笑した。
「他の連中が、相談に来いってうるさくてな」
やはり、波及している。
「俺たちは、どういう扱いだ?」
「利用されてる」
正直に言う。
「だが、騙してはいない」
男は少し考えてから、うなずいた。
「それで十分だ」
去り際、男は振り返る。
「……仲間、増えたな」
リナが俺を見る。
「だってさ」
「勘違いだ」
「でも」
彼女は少し声を落とす。
「一人じゃ、回らなくなってきてない?」
否定できない。
表示の数が、それを示している。
【同時進行予測:上昇】
【負荷:増大】
【補助要員:有効】
俺は息を吐く。
「……考える」
「おっ」
リナの目が輝く。
「ついに?」
「条件付きだ」
「はいはい」
彼女は笑って、肩を叩いてきた。
「でもさ」
「なんだ」
「こういうの、悪くないよ」
ざわつく酒場。
行き交う人の声。
それらが、今はうるさく感じない。
使われない。
だが、孤独でもない。
この位置で、もう少しだけ続けてみるのも――
【新分岐:仲間加入可能性】
【解放条件:信頼】
悪くない。
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