第七話 使われないという選択
翌朝。
街の空はやけに澄んでいた。雲が薄く、光だけが無駄に強い。
翌朝。
街の空はやけに澄んでいた。雲が薄く、光だけが無駄に強い。
宿の二階、窓際の席。
俺は冷めかけたスープを口に運びながら、表示を眺めていた。
【鋼尾:依頼進行中】
【生存率:72% → 89%】
【死亡予測:消失】
数字が変わる瞬間というのは、何度見ても気分がいい。
努力とか根性とかじゃない。
ただ、正しい分岐を踏ませただけだ。
「顔がもう性格悪い」
向かいの席で、リナがパンをちぎりながら言う。
朝から元気だ。無駄に。
「褒めてる?」
「褒めてない」
即答。
だが表情は楽しそうだ。
「ねえアルト」
リナが身を乗り出す。
机に肘をつき、声を落とす。
「昨日の人たち、たぶん成功するよね」
「ああ」
「それでさ」
一拍置いてから、にやっと笑う。
「次、絶対また来るよ」
来るだろうな。
命を拾った人間は、二度と忘れない。
「どうする?」
「同じだ」
「雇われない?」
「雇われない」
リナは肩をすくめた。
「もったいないなあ。
普通なら大金積むよ?」
「金で縛られると、予測が鈍る」
それだけだ。
俺は使われる側に戻る気はない。
その時だった。
階段を駆け上がる足音。
息が切れたまま、宿の店員が顔を出す。
「アルトさん!
外に、冒険者の人が……」
早いな。
予定より半日早い。
外に出ると、そこにいたのは鋼尾の男だった。
鎧は傷だらけだが、立っている。
それが全てだ。
「生きてるな」
「……ああ」
男は深く息を吐いた。
「言われた通りにした。
突っ込まなかった。
引きずり出した」
「結果は?」
「全員、生きてる」
周囲の冒険者たちがざわつく。
視線が集まるのを感じる。
「礼がしたい」
男が頭を下げる。
「正式に、雇ってくれ」
予測通り。
表示が浮かぶ。
【分岐点:雇用】
【受諾時リスク:高】
【拒否時影響:街内評価上昇】
俺は一瞬だけ考えてから、首を振った。
「断る」
ざわめきが大きくなる。
「理由は?」
「俺は前に出ない」
それ以上でも、それ以下でもない。
「だが」
男が食い下がる。
「俺たちは――」
「代わりに」
リナが一歩前に出た。
「情報は渡す。
次も、次の次も」
「条件は?」
「指示は出さない。
選ぶのは、あんたたち」
男はしばらく黙り込んだ。
やがて、うなずく。
「……分かった」
彼らは去っていった。
今度は、背中が少し軽そうだった。
リナがこちらを見る。
「ねえ」
「なんだ」
「これさ」
彼女は指で空をなぞる。
「もう、ただのソロじゃないよね?」
「自覚はある」
「仲間、増えてく感じ?」
俺は街を見渡した。
動き出した歯車。
俺を中心に、だが俺は触らない。
「正確には」
一拍置く。
「使われない仲間が、増える」
リナは一瞬きょとんとしてから、吹き出した。
「なにそれ。
最悪にめんどくさい」
「だろ」
だが、悪くない。
むしろ――
【評価更新】
【街内認知度:上昇】
【間接依頼:増加傾向】
この位置が、一番気持ちいい。
前線に立たず、
だが確実に、世界を動かしている。
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