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追放されたので世界の仕様書を読むことにした  作者: harap1239


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第七話 使われないという選択

翌朝。

 街の空はやけに澄んでいた。雲が薄く、光だけが無駄に強い。



 翌朝。

 街の空はやけに澄んでいた。雲が薄く、光だけが無駄に強い。


 宿の二階、窓際の席。

 俺は冷めかけたスープを口に運びながら、表示を眺めていた。


【鋼尾:依頼進行中】

【生存率:72% → 89%】

【死亡予測:消失】


 数字が変わる瞬間というのは、何度見ても気分がいい。

 努力とか根性とかじゃない。

 ただ、正しい分岐を踏ませただけだ。


「顔がもう性格悪い」


 向かいの席で、リナがパンをちぎりながら言う。

 朝から元気だ。無駄に。


「褒めてる?」


「褒めてない」


 即答。

 だが表情は楽しそうだ。


「ねえアルト」


 リナが身を乗り出す。

 机に肘をつき、声を落とす。


「昨日の人たち、たぶん成功するよね」


「ああ」


「それでさ」


 一拍置いてから、にやっと笑う。


「次、絶対また来るよ」


 来るだろうな。

 命を拾った人間は、二度と忘れない。


「どうする?」


「同じだ」


「雇われない?」


「雇われない」


 リナは肩をすくめた。


「もったいないなあ。

 普通なら大金積むよ?」


「金で縛られると、予測が鈍る」


 それだけだ。

 俺は使われる側に戻る気はない。


 その時だった。


 階段を駆け上がる足音。

 息が切れたまま、宿の店員が顔を出す。


「アルトさん!

 外に、冒険者の人が……」


 早いな。

 予定より半日早い。


 外に出ると、そこにいたのは鋼尾の男だった。

 鎧は傷だらけだが、立っている。

 それが全てだ。


「生きてるな」


「……ああ」


 男は深く息を吐いた。


「言われた通りにした。

 突っ込まなかった。

 引きずり出した」


「結果は?」


「全員、生きてる」


 周囲の冒険者たちがざわつく。

 視線が集まるのを感じる。


「礼がしたい」


 男が頭を下げる。


「正式に、雇ってくれ」


 予測通り。

 表示が浮かぶ。


【分岐点:雇用】

【受諾時リスク:高】

【拒否時影響:街内評価上昇】


 俺は一瞬だけ考えてから、首を振った。


「断る」


 ざわめきが大きくなる。


「理由は?」


「俺は前に出ない」


 それ以上でも、それ以下でもない。


「だが」


 男が食い下がる。


「俺たちは――」


「代わりに」


 リナが一歩前に出た。


「情報は渡す。

 次も、次の次も」


「条件は?」


「指示は出さない。

 選ぶのは、あんたたち」


 男はしばらく黙り込んだ。

 やがて、うなずく。


「……分かった」


 彼らは去っていった。

 今度は、背中が少し軽そうだった。


 リナがこちらを見る。


「ねえ」


「なんだ」


「これさ」


 彼女は指で空をなぞる。


「もう、ただのソロじゃないよね?」


「自覚はある」


「仲間、増えてく感じ?」


 俺は街を見渡した。

 動き出した歯車。

 俺を中心に、だが俺は触らない。


「正確には」


 一拍置く。


「使われない仲間が、増える」


 リナは一瞬きょとんとしてから、吹き出した。


「なにそれ。

 最悪にめんどくさい」


「だろ」


 だが、悪くない。

 むしろ――


【評価更新】

【街内認知度:上昇】

【間接依頼:増加傾向】


 この位置が、一番気持ちいい。


 前線に立たず、

 だが確実に、世界を動かしている。

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