第六話 依頼人
酒場の扉が、乱暴に開いた。
木製の板がきしみ、冷たい風が一瞬流れ込む。霧の匂い混じりで、室内の空気が少しざわついた。
酔っ払いの笑い声が止まり、視線が一斉に入口に集まる。
「……いた」
酒場の扉が、乱暴に開いた。
木製の板がきしみ、冷たい風が一瞬流れ込む。霧の匂い混じりで、室内の空気が少しざわついた。
酔っ払いの笑い声が止まり、視線が一斉に入口に集まる。
「……いた」
重そうな鎧を着た男が、真っ直ぐこちらを見た。
後ろには三人。全員、冒険者だ。
表示が浮かぶ。
【冒険者パーティ:鋼尾】
【実力:中】
【直近の失敗:2件】
【死亡予測:次回依頼で1名】
切羽詰まっている。
空気に、ほんのり緊張が張り付く。
「お前だな」
男は俺ではなく、リナを指差した。
「家畜被害を一日で終わらせたっていう探索者」
「私だけじゃないけど?」
リナは椅子に座ったまま、手を組んで軽く微笑む。
前と変わらぬ軽さで、緊張をかき消すように。
「後ろにいた男が全部当てたって話だ」
……噂、仕事早いな。
「占い師か?
それとも、偶然か?」
「どっちでもいいでしょ」
リナは肩をすくめ、パンを軽く割った。
誰も突っ込まない。
だが、その動きで緊張が少しほぐれる。
「結果、出てるんだから」
男は舌打ちする。
歯の音が、静まり返った酒場に響いた。
「俺たちは次の依頼で死ぬらしい」
ど直球。
視線が集まり、背筋が冷たくなる。
「その“後ろの男”がそう言ったって聞いた」
リナがさらっと言う。
でも、その言葉には含みがある。
「アルト」
リナが小声で耳打ちした。
「簡単な説明、お願い」
俺はため息をつき、立ち上がった。
板の床に靴底が小さく響く。
「占いじゃない。
予測だ。
状況と条件から、起こりうる結果を並べてるだけ」
「なら、外れることもあるんだな?」
「ある。
だが、外れる確率も分かる」
男の目が、変わった。
「……俺たちの失敗、言えるか?」
「言える」
ノートは開かない。
見なくても、必要な情報は頭にある。
「洞窟に入る。
先頭が突っ込みすぎる。
退路を塞がれて、一人死ぬ」
仲間たちは息を飲む。
言葉に間があるだけで、世界の重さを感じる。
「心当たり、あるか」
沈黙。
それが答えだ。
「どうすればいい」
男は頭を下げる。
ここで――
俺は指示を出さない。
「俺は、雇われない」
「……は?」
「代わりに」
リナを見る。
「記録を渡す」
「了解」
彼女が即座にノートを受け取る。
軽く肩を揺らして笑う。
「作戦は簡単」
リナが説明する。
「洞窟の入口は二つ。
囮を出して、奥に引き込まない。
時間をずらして、外に引きずり出す」
「……それだけで?」
「それだけ」
男は歯を食いしばり、うなずいた。
息が少し荒い。緊張は消えない。
「成功したら?」
「生き残る」
「それ以外は?」
リナはにやりと笑う。
照明の下、短剣の柄に光が反射した。
「運が良ければ、評価も上がる」
冒険者たちは静かに酒場を出ていく。
空気が戻る。
歓声も笑い声も、いつも通りだ。
「ねえアルト」
リナが肘で軽く突いてくる。
「これ、だいぶ楽しくなってきてない?」
「……否定はしない」
表示が浮かぶ。
【記録共有:成立】
【イベント改変可能性:高】
【備考:間接介入が最適】
夜はまだ長い。
だが、この立ち位置で、世界が動くのを見ている。
使われる側で、使う側。
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