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追放されたので世界の仕様書を読むことにした  作者: harap1239


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第六話 依頼人

 酒場の扉が、乱暴に開いた。

 木製の板がきしみ、冷たい風が一瞬流れ込む。霧の匂い混じりで、室内の空気が少しざわついた。


 酔っ払いの笑い声が止まり、視線が一斉に入口に集まる。


「……いた」



 酒場の扉が、乱暴に開いた。

 木製の板がきしみ、冷たい風が一瞬流れ込む。霧の匂い混じりで、室内の空気が少しざわついた。


 酔っ払いの笑い声が止まり、視線が一斉に入口に集まる。


「……いた」


 重そうな鎧を着た男が、真っ直ぐこちらを見た。

後ろには三人。全員、冒険者だ。


 表示が浮かぶ。


【冒険者パーティ:鋼尾】

【実力:中】

【直近の失敗:2件】

【死亡予測:次回依頼で1名】


 切羽詰まっている。

空気に、ほんのり緊張が張り付く。


「お前だな」


 男は俺ではなく、リナを指差した。


「家畜被害を一日で終わらせたっていう探索者」


「私だけじゃないけど?」


 リナは椅子に座ったまま、手を組んで軽く微笑む。

前と変わらぬ軽さで、緊張をかき消すように。


「後ろにいた男が全部当てたって話だ」


 ……噂、仕事早いな。


「占い師か?

 それとも、偶然か?」


「どっちでもいいでしょ」


 リナは肩をすくめ、パンを軽く割った。

誰も突っ込まない。

だが、その動きで緊張が少しほぐれる。


「結果、出てるんだから」


 男は舌打ちする。

歯の音が、静まり返った酒場に響いた。


「俺たちは次の依頼で死ぬらしい」


 ど直球。

視線が集まり、背筋が冷たくなる。


「その“後ろの男”がそう言ったって聞いた」


 リナがさらっと言う。

でも、その言葉には含みがある。


「アルト」


 リナが小声で耳打ちした。


「簡単な説明、お願い」


 俺はため息をつき、立ち上がった。

板の床に靴底が小さく響く。


「占いじゃない。

 予測だ。

 状況と条件から、起こりうる結果を並べてるだけ」


「なら、外れることもあるんだな?」


「ある。

 だが、外れる確率も分かる」


 男の目が、変わった。


「……俺たちの失敗、言えるか?」


「言える」


 ノートは開かない。

見なくても、必要な情報は頭にある。


「洞窟に入る。

 先頭が突っ込みすぎる。

 退路を塞がれて、一人死ぬ」


 仲間たちは息を飲む。

言葉に間があるだけで、世界の重さを感じる。


「心当たり、あるか」


 沈黙。

それが答えだ。


「どうすればいい」


 男は頭を下げる。

ここで――


 俺は指示を出さない。


「俺は、雇われない」


「……は?」


「代わりに」


 リナを見る。


「記録を渡す」


「了解」


 彼女が即座にノートを受け取る。

軽く肩を揺らして笑う。


「作戦は簡単」


 リナが説明する。


「洞窟の入口は二つ。

 囮を出して、奥に引き込まない。

 時間をずらして、外に引きずり出す」


「……それだけで?」


「それだけ」


 男は歯を食いしばり、うなずいた。

息が少し荒い。緊張は消えない。


「成功したら?」


「生き残る」


「それ以外は?」


 リナはにやりと笑う。

照明の下、短剣の柄に光が反射した。


「運が良ければ、評価も上がる」


 冒険者たちは静かに酒場を出ていく。

空気が戻る。

歓声も笑い声も、いつも通りだ。


「ねえアルト」


 リナが肘で軽く突いてくる。


「これ、だいぶ楽しくなってきてない?」


「……否定はしない」


 表示が浮かぶ。


【記録共有:成立】

【イベント改変可能性:高】

【備考:間接介入が最適】


 夜はまだ長い。

だが、この立ち位置で、世界が動くのを見ている。


 使われる側で、使う側。

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