第五話 あいつら、何をした?
村の外れ、畑の前。
「……で、ここを掘ったら出てきたんだって?」
村の外れ、畑の前。
「……で、ここを掘ったら出てきたんだって?」
腕を組んだ中年の男が、疑わしそうに地面を見下ろしていた。
冒険者ギルドから派遣された調査員だ。
「はい。深さ二メートルくらいでした」
答えたのは、赤茶の髪の探索者。
リナ・クロウ。
「普通、原因不明の家畜被害って言ったら、
まず足跡調べるか、罠仕掛けるかだろ」
「ですね」
「なのに、いきなり掘る?」
調査員は眉をひそめた。
「誰が判断した?」
「後ろにいた人」
「後ろ?」
調査員が顔を上げる。
少し離れた木陰。
ノートを抱えた青年が立っていた。
「……あれ?」
調査員が目を細める。
「戦ってたのは、あんた一人だよな?」
「はい」
「じゃあ、あいつは?」
リナは即答した。
「頭」
「は?」
「頭脳担当です。
魔物の種類、巣の場所、被害の拡大予測まで全部」
調査員は一瞬、言葉を失った。
「……そんなの、事前に分かるわけが」
「分かってましたよ」
さらっと言う。
「掘る場所も、深さも、
“そこにいる”ってことも」
「どうやって」
リナは振り返り、木陰の青年を見る。
「説明する?」
アルトは、少しだけ肩をすくめた。
「簡単だ」
静かな声だが、はっきりしている。
「家畜の被害範囲。
土の沈み。
魔力の流れ」
「……それだけで?」
「それだけで足りる」
調査員は、完全に黙った。
嘘をついている様子はない。
だが、理屈が追いつかない。
「ギルドには、
この村の被害は“偶発的”って報告が上がってた」
「それが間違いだっただけです」
アルトは、淡々と言う。
「放置していれば、五日以内に被害は拡大した。
死者も出ていた」
「……断言できる根拠は?」
「記録がある」
ノートを軽く掲げる。
調査員は、それ以上踏み込まなかった。
踏み込めなかった、が正しい。
その日の夕方。
酒場は、妙にざわついていた。
「聞いたか?」
「何を?」
「家畜被害、一日で終わったって話」
「探索者一人で?」
「いや、二人組らしい」
「二人?」
噂は、勝手に形を変える。
「前で戦う女と、
後ろで全部分かってる男」
「占い師か?」
「参謀だろ」
「勇者の卵じゃね?」
当の本人たちは、隅の席だ。
「ねえアルト」
「なんだ」
「今の噂、だいぶ盛られてない?」
「放っておけ」
「“未来が見える男”になってたよ?」
「盛りすぎだ」
リナは笑いながら、パンをちぎる。
「でもさ」
「?」
「こうやって話が広がるの、
嫌じゃないでしょ」
アルトは少し考えた。
「……計算外だが、悪くはない」
「でしょ」
リナは満足そうだ。
「情報ってさ、
正しくなくても、動くだけで力になる」
「歪む」
「うん。でも」
彼女は肩をすくめる。
「歪まなきゃ届かない場所もある」
アルトは返さなかった。
その代わり、視界に新しい表示が浮かぶ。
【記録影響:拡散中】
【誤差:発生】
【将来的リスク:中】
――来る。
良くも悪くも。
「リナ」
「ん?」
「次から、説明は簡単にしろ」
「了解。
“この人が言ってたから”でいい?」
「それでいい」
「雑!」
「十分だ」
二人は、同時に水を飲んだ。
世界は、少しずつこの存在を認識し始めている。
正確じゃない形で。
だが、確実に。
アルトはノートを閉じた。
次に書く記録は、
もう“村一つ”では済まない。
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