第四話 後ろで書くやつと、前で騒ぐやつ
結論から言うと、リナはうるさい。
静かな森でも、彼女が一緒だと不思議と空気が騒がしくなる。
「ねえアルト、これ本当に安全ルート?
草の揺れ方、ちょっと怪しくない?」
結論から言うと、リナはうるさい。
静かな森でも、彼女が一緒だと不思議と空気が騒がしくなる。
「ねえアルト、これ本当に安全ルート?
草の揺れ方、ちょっと怪しくない?」
「怪しくない。
この時間帯、風速二。気温は安定。
魔物の活動指数は低い」
森の中を進みながら、俺はノートを開いたまま淡々と答える。
視界には、いつもの半透明の表示が浮かんでいた。
【周辺環境:安定】
【魔物出現確率:低】
【注意点:なし】
問題ない。
少なくとも、数値上は。
「ねえ」
「今度は何だ」
「“注意点:なし”って、逆に怖くない?」
リナが、歩調を緩めて言った。
軽口だが、足は止めている。
その瞬間、表示が切り替わった。
【未記録イベント:発生】
【内容:擬態型魔物】
【危険度:低 → 中】
「来るぞ。左後ろ」
「はいはい!」
返事と同時に、リナが跳ぶ。
反応が速い。判断も早い。
地面が、盛り上がった。
湿った土が割れ、ぬるりと黒い影が飛び出す。
「うわ、見た目最悪!」
「擬態型だ。
表皮は硬いが、中は柔らかい。
首元と関節を狙え」
「了解!」
リナは迷わず踏み込み、短剣を振るう。
俺は後方で、一歩も動かない。
戦えない。
だからこそ、見る。
【魔物名:擬態蟲】
【弱点:関節部】
【行動パターン:直線突進】
「次、右から来る!」
「もう見えてる!」
言いながら、リナが回り込む。
刃が閃き、鈍い音と共に魔物が崩れ落ちた。
数秒。
短く、無駄のない戦闘。
「ふー……」
リナが肩を回し、こっちを振り返る。
「ねえアルト」
「なんだ」
「これ、楽じゃない?」
「どこがだ」
「だってさ」
彼女は短剣をしまい、笑う。
「来るの分かってて、
弱点も分かってて、
しかも後ろで冷静に指示されるんだよ?」
……確かに。
視界の端で、ログが更新されていた。
【連携補正:発生】
【記録精度:上昇】
【備考:戦闘時の実況は有効】
「実況扱いか」
「最高でしょ。
戦わないのに一番仕事してる」
「それ、褒め方おかしい」
「褒めてる褒めてる」
リナは楽しそうに笑った。
このテンション、嫌でも場を明るくする。
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