第二話 記録は武器にならない
最初に分かったのは、この力がとことん嫌らしいということだった。
俺は街道を歩きながら、何人もの人間を“読んだ”。
【旅商人:ロドス】
【死亡予測:3日後】
【原因:盗賊団「黒牙」】
【回避条件:北回りルート】
最初に分かったのは、この力がとことん嫌らしいということだった。
俺は街道を歩きながら、何人もの人間を“読んだ”。
【旅商人:ロドス】
【死亡予測:3日後】
【原因:盗賊団「黒牙」】
【回避条件:北回りルート】
【護衛剣士:死亡予測:同行時、同日】
喉が詰まる。
未来が見える。
助かる方法も分かる。
――なのに、俺は口出しできない。
試しに声をかけようとした瞬間、視界に赤文字が走った。
《警告:干渉行為を検知》
《権限制限により強制停止》
足が、動かなくなった。
「……くそ」
俺は世界の観測者だ。
プレイヤーじゃない。
助言という名の“介入”すら、簡単には許されない。
結局、俺は道端の岩陰から、商人一行が去るのを見送った。
三日後、あの予測は現実になる。
胸の奥が、静かに腐る。
その夜、野営中にもう一つ分かったことがある。
俺の前に、半透明のウィンドウが開いていた。
【ログ保存完了】
【記録数:1】
【記録の価値:低】
【備考:共有により影響力上昇の可能性】
「共有……?」
つまり、俺が直接言えなくても、
書いたものを他人が読むのは許されるらしい。
制限の抜け穴。
こういうの、嫌いじゃない。
俺はノートを取り出した。
安物の紙束。勇者パーティでは雑用係の象徴だったものだ。
だが今は違う。
「黒牙盗賊団。出現条件……」
書いた瞬間、指先が熱を持った。
【記録補正:発生】
【情報精度:上昇】
【閲覧者適性:盗賊・護衛系】
……なるほど。
俺が“知っていること”を文章に落とすことで、
世界はそれを情報資源として扱い始める。
誰かが読めば、判断が変わる。
行動が変われば、未来も変わる。
間接的だが、確実だ。
剣より遅く、魔法より地味。
それでも、届く。
「俺は記録係でいい」
英雄が勝利を語るなら、
俺は失敗の理由を書く。
それを拾う誰かがいれば、それでいい。
遠くで、獣の遠吠えが響いた。
視界の端に、新しい表示が浮かぶ。
【未記録イベント:局地的衝突】
【影響度:低】
【将来的影響:中】
……仕事は山ほどあるらしい。
俺はペンを握り直した。
世界は今日も、静かに壊れていく。
それを全部、残してやる。
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