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追放されたので世界の仕様書を読むことにした  作者: harap1239


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第二話 記録は武器にならない

 最初に分かったのは、この力がとことん嫌らしいということだった。


 俺は街道を歩きながら、何人もの人間を“読んだ”。


【旅商人:ロドス】

【死亡予測:3日後】

【原因:盗賊団「黒牙」】

【回避条件:北回りルート】



 最初に分かったのは、この力がとことん嫌らしいということだった。


 俺は街道を歩きながら、何人もの人間を“読んだ”。


【旅商人:ロドス】

【死亡予測:3日後】

【原因:盗賊団「黒牙」】

【回避条件:北回りルート】


【護衛剣士:死亡予測:同行時、同日】


 喉が詰まる。


 未来が見える。

 助かる方法も分かる。


 ――なのに、俺は口出しできない。


 試しに声をかけようとした瞬間、視界に赤文字が走った。


《警告:干渉行為を検知》

《権限制限により強制停止》


 足が、動かなくなった。


「……くそ」


 俺は世界の観測者だ。

 プレイヤーじゃない。


 助言という名の“介入”すら、簡単には許されない。


 結局、俺は道端の岩陰から、商人一行が去るのを見送った。

 三日後、あの予測は現実になる。


 胸の奥が、静かに腐る。


 その夜、野営中にもう一つ分かったことがある。


 俺の前に、半透明のウィンドウが開いていた。


【ログ保存完了】

【記録数:1】

【記録の価値:低】

【備考:共有により影響力上昇の可能性】


「共有……?」


 つまり、俺が直接言えなくても、

書いたものを他人が読むのは許されるらしい。


 制限の抜け穴。

 こういうの、嫌いじゃない。


 俺はノートを取り出した。

 安物の紙束。勇者パーティでは雑用係の象徴だったものだ。


 だが今は違う。


「黒牙盗賊団。出現条件……」


 書いた瞬間、指先が熱を持った。


【記録補正:発生】

【情報精度:上昇】

【閲覧者適性:盗賊・護衛系】


 ……なるほど。


 俺が“知っていること”を文章に落とすことで、

世界はそれを情報資源として扱い始める。


 誰かが読めば、判断が変わる。

 行動が変われば、未来も変わる。


 間接的だが、確実だ。


 剣より遅く、魔法より地味。

 それでも、届く。


「俺は記録係でいい」


 英雄が勝利を語るなら、

俺は失敗の理由を書く。


 それを拾う誰かがいれば、それでいい。


 遠くで、獣の遠吠えが響いた。


 視界の端に、新しい表示が浮かぶ。


【未記録イベント:局地的衝突】

【影響度:低】

【将来的影響:中】


 ……仕事は山ほどあるらしい。


 俺はペンを握り直した。


 世界は今日も、静かに壊れていく。

 それを全部、残してやる。

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