第十三話 進むために、止める
動かない地面ほど、信用ならないものはない。
俺は、足元の土を小石で叩いた。
音は返ってくる。
だが、返り方が鈍い。
「踏み固められてない……いや、違うな」
地面が“ある”ことと、
“支える”ことは、別だ。
動かない地面ほど、信用ならないものはない。
俺は、足元の土を小石で叩いた。
音は返ってくる。
だが、返り方が鈍い。
「踏み固められてない……いや、違うな」
地面が“ある”ことと、
“支える”ことは、別だ。
「全員、円になれ。間隔を空けろ」
短く指示を出す。
護衛たちはすぐに動いた。
もう、疑う顔はない。
「重いものを中心に集めるな。
馬車はこのまま」
「放置か?」
「置く」
商人が唾を飲み込む。
「商品が――」
「命より軽い」
言い切ると、反論は消えた。
俺は周囲を見る。
街道の端。
雑草が、不自然に同じ方向へ倒れている。
「リナ」
「なに」
「あそこ、風向きがおかしい」
彼女は目を細め、すぐに頷いた。
「……流れてない。
吸われてる」
「だな」
見えない“穴”。
さっき馬車の後輪が沈んだ場所と、同じ感覚。
「じゃあ、ここは」
「境界だ」
誰に言うでもなく、口に出た。
次の瞬間、護衛の一人が声を上げる。
「待て! 足が――」
沈む。
ほんの数センチ。
だが、確実に。
「動くな!」
全員に叫ぶ。
男の足元だけ、地面の色が違う。
濃く、暗い。
「引っ張るな」
反射的に手を伸ばした仲間を止める。
「力をかけたら、余計に沈む」
「じゃあどうする!」
俺は息を吸う。
「重さを、散らす」
リナが理解した。
「盾!」
「二枚。横に」
護衛が盾を差し出す。
俺はそれを地面に寝かせ、沈みかけた足の横に滑り込ませた。
「体重を、盾に預けろ。ゆっくり」
男は歯を食いしばり、言われた通りに動く。
地面が、わずかに戻る。
「今だ」
二人が支え、男を引き抜く。
完全に抜けた瞬間、さっきの場所が――消えた。
そこには、何もない。
穴も、影も。
ただ、**“踏めない空間”**だけが残る。
「……助かった」
男が座り込み、息を吐く。
誰も、安堵の声を上げない。
全員、理解したからだ。
ここでは、一歩の判断が、命を分ける。
遅れて、表示が浮かぶ。
【回避:成功】
【代償:認識負荷増大】
頭が、少し重い。
世界を“分かろう”とするほど、削られていく感覚。
だが、分かったこともある。
「この異常は、ランダムじゃない」
全員を見る。
「重さ、動き、意識。
反応してる」
商人が震える声で言う。
「……生きてる、みたいだ」
「近い」
否定はしない。
「だから、歩き方を変える」
俺は地面に線を引く。
「一列。
俺が先頭。
踏む場所は、俺が決める」
誰も異議を唱えなかった。
表示が、静かに更新される。
【行動権限:確定】
【判断速度:上昇】
【不可逆点:接近】
助けられた。
まだ、誰も失っていない。
だが、はっきり分かる。
次は、選ばされる。
助けるか。
切り捨てるか。
もう、数字は教えてくれない。
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