第十二話 助かった分だけ、歪む
街道は、進めば進むほどおかしくなった。
距離にして、ほんの数百歩。
なのに、空気の重さが違う。音の抜け方が違う。
「さっきからさ」
リナが馬車の横を歩きながら言う。
「ここ、静かすぎない?」
街道は、進めば進むほどおかしくなった。
距離にして、ほんの数百歩。
なのに、空気の重さが違う。音の抜け方が違う。
「さっきからさ」
リナが馬車の横を歩きながら言う。
「ここ、静かすぎない?」
確かに。
風は吹いているのに、葉擦れの音が薄い。
音が、途中で吸われている感覚。
表示は相変わらず役に立たない。
【観測阻害:継続】
【因果偏移:進行】
嫌な言葉ばかり増える。
「アルト」
商人が、不安そうに声をかけてくる。
「この依頼、やっぱり――」
言い終わる前に、馬が嘶いた。
高く、短く。
次の瞬間、荷馬車が大きく揺れる。
「止めろ!」
叫ぶと同時に、リナが手綱を掴んだ。
馬は暴れない。
だが、地面のほうが信用できない。
護衛の一人が、地面を見て声を上げる。
「……影が、おかしい」
足元。
俺たちの影が、ずれている。
太陽は同じ位置にあるはずなのに、
影の向きが、少しずつ違う。
「全員、動くな」
言い切る。
今度は、誰も逆らわない。
その瞬間――
馬車の後輪が、消えた。
正確には、沈んだ。
音もなく、地面に吸い込まれるように。
「うわっ!」
商人がバランスを崩す。
リナが腕を掴み、引き戻す。
「落ちるな!」
俺は、目を凝らす。
そこには、穴はない。
ただ、地面が“抜けている”。
理解できない現象。
数字が出ない理由が、はっきりした。
「……これ、自然じゃない」
リナの声が、珍しく硬い。
「ああ」
人為的か、世界的か。
どちらにせよ、街道を使っていい状態じゃない。
「引き返す」
即断。
「でも、街は――」
「戻る」
商人の言葉を遮る。
「このまま進めば、次は人が落ちる」
護衛たちが、顔を見合わせる。
その時だった。
遠くで、何かが崩れる音がした。
振り返ると、来た道の一部が、波打っている。
遅れて、表示が浮かぶ。
【遮断:成立】
【退路:消失】
「……は?」
商人の声が裏返る。
「戻れないって、どういう――」
「囲まれた」
短く言う。
街道の前後。
どちらも、安全じゃない。
沈黙が落ちる。
俺の胸の奥で、はっきりと何かが切り替わった。
これは護衛依頼じゃない。
事故対応でもない。
「聞け」
全員を見る。
「ここから先は、俺が指示を出す」
今まで言わなかった言葉。
「従えとは言わない。
だが、勝手に動くな」
誰も反論しない。
それが、答えだった。
表示が、今までで一番重く浮かぶ。
【立場更新】
【間接介入 → 直接関与】
【リスク:極大】
逃げなかった。
助けた。
その結果――
俺は、当事者になった。
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