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追放されたので世界の仕様書を読むことにした  作者: harap1239


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第十二話 助かった分だけ、歪む


 街道は、進めば進むほどおかしくなった。


 距離にして、ほんの数百歩。

 なのに、空気の重さが違う。音の抜け方が違う。


「さっきからさ」


 リナが馬車の横を歩きながら言う。


「ここ、静かすぎない?」



 街道は、進めば進むほどおかしくなった。


 距離にして、ほんの数百歩。

 なのに、空気の重さが違う。音の抜け方が違う。


「さっきからさ」


 リナが馬車の横を歩きながら言う。


「ここ、静かすぎない?」


 確かに。

 風は吹いているのに、葉擦れの音が薄い。

 音が、途中で吸われている感覚。


 表示は相変わらず役に立たない。


【観測阻害:継続】

【因果偏移:進行】


 嫌な言葉ばかり増える。


「アルト」


 商人が、不安そうに声をかけてくる。


「この依頼、やっぱり――」


 言い終わる前に、馬が嘶いた。


 高く、短く。

 次の瞬間、荷馬車が大きく揺れる。


「止めろ!」


 叫ぶと同時に、リナが手綱を掴んだ。

 馬は暴れない。

 だが、地面のほうが信用できない。


 護衛の一人が、地面を見て声を上げる。


「……影が、おかしい」


 足元。

 俺たちの影が、ずれている。


 太陽は同じ位置にあるはずなのに、

 影の向きが、少しずつ違う。


「全員、動くな」


 言い切る。


 今度は、誰も逆らわない。


 その瞬間――


 馬車の後輪が、消えた。


 正確には、沈んだ。


 音もなく、地面に吸い込まれるように。


「うわっ!」


 商人がバランスを崩す。


 リナが腕を掴み、引き戻す。


「落ちるな!」


 俺は、目を凝らす。

 そこには、穴はない。


 ただ、地面が“抜けている”。


 理解できない現象。

 数字が出ない理由が、はっきりした。


「……これ、自然じゃない」


 リナの声が、珍しく硬い。


「ああ」


 人為的か、世界的か。

 どちらにせよ、街道を使っていい状態じゃない。


「引き返す」


 即断。


「でも、街は――」


「戻る」


 商人の言葉を遮る。


「このまま進めば、次は人が落ちる」


 護衛たちが、顔を見合わせる。


 その時だった。


 遠くで、何かが崩れる音がした。


 振り返ると、来た道の一部が、波打っている。


 遅れて、表示が浮かぶ。


【遮断:成立】

【退路:消失】


「……は?」


 商人の声が裏返る。


「戻れないって、どういう――」


「囲まれた」


 短く言う。


 街道の前後。

 どちらも、安全じゃない。


 沈黙が落ちる。


 俺の胸の奥で、はっきりと何かが切り替わった。


 これは護衛依頼じゃない。

 事故対応でもない。


「聞け」


 全員を見る。


「ここから先は、俺が指示を出す」


 今まで言わなかった言葉。


「従えとは言わない。

 だが、勝手に動くな」


 誰も反論しない。


 それが、答えだった。


 表示が、今までで一番重く浮かぶ。


【立場更新】

【間接介入 → 直接関与】

【リスク:極大】


 逃げなかった。

 助けた。


 その結果――

 俺は、当事者になった。

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