第十一話 判断が先に出る
転んだ護衛は、すぐには起き上がらなかった。
「おい、大丈夫か!」
仲間が駆け寄る。
だが、地面に伏せた男は呻き声を上げるだけで、手足がうまく動いていない。
「足、ひねったか?」
「……分からん」
震える声。
焦りが、そのまま伝わってくる。
転んだ護衛は、すぐには起き上がらなかった。
「おい、大丈夫か!」
仲間が駆け寄る。
だが、地面に伏せた男は呻き声を上げるだけで、手足がうまく動いていない。
「足、ひねったか?」
「……分からん」
震える声。
焦りが、そのまま伝わってくる。
俺は、反射的に表示を探した。
――出ない。
成功率も、生存率も、何も。
代わりに浮かぶのは、曖昧な警告だけだ。
【因果未確定】
【次事象:不明】
「アルト」
リナが、俺の横に並ぶ。
「どう見る?」
いつもなら、答えは数字だ。
だが今は、違う。
地面。
風の流れ。
馬の様子。
荷馬車の前に立つ馬が、小さく鼻を鳴らしている。
落ち着かない。
だが、暴れてはいない。
「……止まるな」
「え?」
「全員、馬車から離れろ」
言葉が、口から先に出た。
護衛たちが戸惑う。
「理由は?」
「今は説明できない」
それでも、声は強めた。
「離れろ」
一瞬の迷い。
だが、リナが動いた。
「聞いて。
この人、今まで外したことない」
それが決め手だった。
護衛たちが、男を引きずるようにして距離を取る。
次の瞬間。
――地面が、沈んだ。
音はない。
だが、確かにそこだけ、空気が歪む。
さっきまで荷馬車があった場所が、わずかに陥没していた。
「……なんだ、今の」
商人が、青い顔で呟く。
俺の背中に、冷たい汗が流れる。
理由は分からない。
だが、分かることが一つある。
あそこにいたら、誰か死んでた。
表示が、遅れて浮かぶ。
【結果:回避】
【評価:不完全】
「不完全?」
思わず声に出る。
リナが苦笑した。
「完璧じゃないって意味でしょ」
「……そうだな」
護衛の一人が、俺を見る。
「今の、どうやって分かった」
どう答えるべきか、一瞬迷う。
「分からない」
正直に言った。
「だが、分からない時ほど、止まるべきだ」
沈黙。
だが、誰も反論しなかった。
護衛の男が、苦しそうに息を吐く。
「助かった……のか?」
「ああ」
少なくとも、今は。
俺は空を見る。
雲の流れが、不自然に途切れている。
数字がなくても、
世界は、確実に動いている。
そして――
この先は、
見てから選ぶんじゃ、間に合わない。
【判断主体:更新】
【観測→選択:移行中】
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