魔法ありの世界
はためく裾から解放されたのは、馬車に乗り込んだ後だった。
どうやらさっきの若者達と、このお爺さんは別の馬車に乗り込んだらしい。
お爺さんが椅子に座ったタイミングで山田は、短い足をバタつかせて馬車の床面になんとか降りた。
板張りの床には薄いカーペットのようなものが敷いており、小さな山田はお爺さんの座っている椅子と入ってきた扉の隙間に入ってやり過ごすことに決め、腰を下ろした。
「それにしても、今回の者達は皆面妖な容姿をしておりましたな」
「ーーーーー。」
「やはり時代の流れでしょうかな。」
「ーー。」
お爺さんの言葉は分かるが、お爺さんと話している他のローブの人の言葉は分からない。
お爺さんの言葉は日本語に聞こえるが、日本語を話しているということではなさそうだ。
「あぁ、ワシとしたことが…言語魔法をかけたままじゃったわ」
お爺さんがそう言って、空中に何かを描くようにして指を振ると、お爺さんの話す言葉の意味も分からなくなった。
(すごい!!魔法がある世界線だ!俺毛玉だけど!!)
「ーーー。」
お爺さんの言葉も分からなくなってしまった。
言葉は分からないなりに彼らを観察していると、何となく階級のようなものがあるのが服装や話す雰囲気から感じられた。
一緒の馬車にいるのはローブお爺さん、おかっぱローブ、刺繍のある軍服のような服を着た帯剣した男の人、豪奢な短いマントをつけた20代〜30代くらいの男の人だ。
(お爺さんよりマントの人の方が偉い人っぽいな。何となく。帯剣してる人は護衛かな。)
マント男は暗い茶髪に近い金髪で、鼻が高く、深い緑の目をしている。お爺さんと話す言葉は分からないが、気品が伝わってくる。そして落ち着いた話し方と静かな目が、上に立つ者オーラを醸し出している。
(よし、降りるときはこの人に引っ付いていこう。)
山田はマント男に目をつけた。
ガタンっと大きく馬車が揺れた。どうやらお城に到着したようだ。
その衝撃で小さな山田はコロコロと転がり、全身ホコリまみれになってひと回り大きな毛玉になった。