苦情
俺は小説投稿サイト『小説家になりお』で小説を書いている。
相互お気に入りユーザーさんが多いおかげで、俺の作品は投稿するたびにランキング入りする。
とはいってもみんなちゃんと正当に評価してくれるので、あんまりなものを書いたらポイントは伸びず、ランキング入りすることもない。
何より一見のユーザーさんに評価されなければすぐにランキングからズルズルと落ちる。
俺の書くものは流行ジャンルでなく、自分が面白いと思うものなので、一見さんには興味ももってもらえないのか、実際すぐにランキング落ちするのがほとんどだった。
それでもたまに、ネタがタイムリーだったからなのか、一見さんからの感想がもらえ、長くランキングに入ることもあった。
しかし嬉しい感想ばかりではない。
交流のある相互ユーザーさんと違って、一見さんからの感想には厳しいものもあった。
中には『苦情』といえるものも──
アクション小説を書いた。
老人がなりすまし詐欺に引っかかり、全財産を騙し取られ、絶望して自殺する。その老人と親しかった元傭兵の男が、ミツバチを使って復讐する話だ。ちなみにジェイソン・ステイサムとは関係ない。
一見さんから感想がついた。
それを読んだ俺は、しまったなと思った。
『祖母がなりすまし詐欺に遭ったことがあります。その時のことを思い出し、嫌な気持ちになりました。できればあらすじに注意書きがほしかったです』
俺はあらすじに『なりすまし詐欺に遭う場面があります』と注意書きを加えた。
それからはそういった境遇の読書さんがいることを想定し、心の傷に触れてしまわないよう、必ず注意書きを添えることにした。
ネズミ被害に悩む主人のために、ネズミと闘うネコのアクション小説を書いた。我ながら面白く書けたと思ったし、実際ランキングも長く残った。
感想がついた。
『幼い息子が読んでしまいました。うちではハムスターとファンシーラットを飼っております。その子らがネコにやられるのを想像してしまい、心に傷を負いました。表現をもっと優しくしてください!』
なるほど……と思った。
確かに俺の小説は、ネコがネズミを必殺技を使ってズタボロにし、最後には殺してしまう。
しかし今さらそれをコミカルなトムとジェリーにはできなかった。
あらすじに『ネコがネズミを殺す場面があります』と注意書きを添えるしかできなかった。
たまには恋愛小説も書く。
器量の悪い女の子がイケメンに恋をし、メガネをはずしたらじつは美少女なことと自慢のおっぱいを武器に、恋を勝ち取るという話だ。これも結構長いことランキングの100位以内に入り続けた。
感想がついた。
『メガネ女子ですが、現実にはメガネをはずしたら美少女になる人間などいません。周囲にへんな期待をされて困っています。設定を変えてください』
『Aカップ女子です。巨乳のほうが格上だなんてのは差別思想です。傷つきました』
『ブ男です。主人公が恋する男はなぜいつもイケメンなのですか? 傷つきました』
『なぜ黒人や障碍者が出てこないのでしょう? これは差別です』
俺は『小説家になりお』を退会した。