コンビニの店内でよくわからないことを指示されてやらされた……
ローソン仙台南光台一丁目店は角地に建つ二階建ての建物で、一階部分がコンビニになっている。横に屋根付きの外廊下があり、二階は住居になっているらしい。
周囲には、道路を挟んでバス置き場、鉄骨造りの四階建てマンション『イーグルハイツ南光台』がある。その一階には建設会社の事務所と整骨院、小ぢんまりとしたバーが入っていた。
特に変わったところのない、ごくありふれた景色だった。
見通しの良い場所とも思えなかったが、電話の主は必ずどこかから俺を見ている。指示を確実に遂行したかどうかを確認するために。
ローソンの自動ドアをくぐると、機械的な入店音が響いた。
ひとまず店内を歩き、客の様子を確認する。
時刻は午前十時頃。
飲料コーナーでは大学生くらいの男女が楽しげに話しながら商品を選び、菓子コーナーでは四十代くらいの主婦風の女性が品定めをしていた。おにぎりコーナーでは、爺さんが腕を組んで思案顔をしている。
俺は商品を選ぶふりをしながら、外と面したコーナーへと移動し、ガラス越しに店外を見た。しかし、監視しているような人物は見当たらなかった。
それでも、誰かがどこかで見ている——その緊張感を持ったまま、ジャムパンを手に取る。そして、レジへ向かった。
レジの店員は、丸顔でやや太った大柄な中年男だった。身長はおそらく一八〇センチ以上。左手薬指には指輪が光っている。既婚者のようだ。
こいつが電話の主か?
俺はまじまじと男の顔を見つめた。しかし、店員は怪訝そうに眉をひそめるだけで、特に変わった様子はない。
見極められない。
次の瞬間、俺は口を開いた。
「それゆけアンパンマン!」
声が店内に響く。
「……それはジャムパンやないかーい!」
滑稽なほどに大袈裟なノリツッコミだった。
店内の空気が凍りついた。
俺は四十を過ぎた男だ。コンビニのレジで突然こんなことを叫ぶなど、完全に頭のおかしい人間にしか見えないだろう。
客たちが驚いた顔でこちらを見ていた。大学生の男女は顔を見合わせ、主婦風の女性は目を見開いている。爺さんに至っては、困惑したようにおにぎりを握りしめたまま固まっていた。
まったくウケていない。
レジの店員は、動きを止めたまま、やや怒ったような表情を浮かべていた。
俺は何事もなかったかのようにジャムパンの代金を支払い、店を出た。
帰宅すると、しばらくの間、茫然としたままソファに座り込んだ。
何をさせられたんだ、俺は。
二十分程経った頃、スマホが鳴った。画面には先ほどの番号が表示されている。
通話ボタンを押すと、男が愉快そうな声で言った。
『きちんと指示通りやったな。動画、バッチリ撮れたぜ』
笑い声が耳に響いた。
『次の指示は追って連絡する』
それだけ言い残し、男は一方的に電話を切った。
俺をただ笑いものにしたかっただけなのか?
目的は——まったくわからなかった。
明日は21時30分投稿予定です