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罰が当たったのか、どこの誰かわからない奴から脅された……

 朝になった。

 目を覚ますと、昨夜のような強い金への執着は不思議なほど消えていた。


 まるで熱に浮かされていたかのようだった。久しぶりに大金を目の当たりにしたせいで、一時的に精神が錯乱していたのだろう。


「なんて愚かなことを考えたんだ……」


 罪悪感がふつふつと胃の底からせり上がってくる。昨夜の自分の思考を振り返ると、まるで別人のように感じられた。あの金を手に入れてもいいだなんて、身勝手で恥ずべき考えだった。


 だが、それならすぐに警察に届ければいいのかといえば、それもためらわれた。


 生活の不安があるのは事実だった。たとえ清掃の仕事が性に合っていたとはいえ、手取り十五万に満たない生活がこの先ずっと続くのかと思うと、先の見えない不安に押し潰されそうになる。


 今の俺にとって、大金はあまりにも魅力的だった。


 そうした葛藤があったせいで、警察署へ足を向けることもできず、だからといってこの金を使う気にもなれなかった。


 結局、封筒は部屋の隅に置かれたままとなった。


 この部屋には誰も訪れない。客が来ることはないし、電話が鳴ることもない。ただ仕事をして帰ってくるだけの毎日。だから、封筒を置いたところで問題はないはずだった。


 少なくとも、その時はそう思っていた。


 一週間が過ぎた。

 その日、スマホに見知らぬ番号からの着信があった。

 仕事の関係者かもしれないと思い、躊躇いながらも通話ボタンを押した。


『あんたが金の入った封筒を拾ったのを見たぜ』


 低く、抑えた男の声だった。

 背筋に悪寒が走った。


「何のことだ?」


 しらを切る。だが、次の瞬間、スマホに送られてきた動画を見て愕然とした。

 そこには、大堤公園のセメント橋のたもとで俺が封筒を拾い上げる瞬間が、鮮明に映っていた。


 男の話によれば、奴は俺より少し先に大堤公園を通り抜け、封筒の存在に気づいたらしい。しかし、俺と同じように『面倒に巻き込まれるのはごめんだ』と考え、通り過ぎた。


 ところが、その後、考えを改め、猫糞してやろうと引き返した。

 しかし、そこへ俺が現れた。


『俺は近くに隠れて息を殺した。あんたがどうするか見てやろうと思ってな』


 男は愉快そうに語った。

 俺の足音を聞き、後ろ暗さがあったので、慌てて茂みに身を潜めたという。

 そして、奴はスマホを取り出し、俺の姿を撮影した。


『俺のスマホ、赤外線カメラとしても使えるんだよ』


 奴は歌舞伎町の酒場で絡まれ、突然殴られたことがあり、その時、赤外線防犯カメラの映像のおかげで正当防衛が証明され、助かった経験があるらしい。それ以来、夜間撮影ができる高価なスマホを愛用しているとのことだった。


『あんたが立ち去った後、尾行してやったよ』


 息を呑む。


『あんたの家も、ちゃんと突き止めた。電話番号は郵便物を漁って手に入れた。なかなかの生活してるじゃねぇか』


 郵便物を漁った?

 悪寒が首筋を突き抜ける。


『「最初は警察に突き出してやろうかと思ったんだが、それじゃ金が手に入らねぇ。部屋に押し入って盗もうかとも思ったが、リスクが高すぎる」


 男はクククッと喉を鳴らして笑った。


『だから、この動画で脅して、金を巻き上げることにしたのさ』


 男はさらに、俺が警察に届けたかどうかを確認するために、同じ特徴の封筒をあの場所に落としたと偽の遺失届まで出したという。


 悪質で、狡猾なやり口。

 俺は拳を握りしめた。


「たちが悪い奴だな……」


 呟いた声が、我知らず低くなった。

 厄介なことになった。

 いよいよ、このままでは済まされない。


 金を要求されるのだろうと思いながら、「どうすればいい?」と尋ねた。

 すると、男は楽しげな口調で言った。


『ただ金をもらっても面白くないからな。しばらく遊ばせてもらうよ』


 遊ぶ? 嫌な予感がした。


『今すぐ、ローソン仙台南光台一丁目店に行け。そして、指示通りのことをやれ』


 命令のような口調だった。

明日は21時20分投稿予定です。

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