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脅していた奴が誰なのか……これって、わかったうちに入るのか?

「俺を脅していた胸糞の悪い、あの男の正体って誰だったんですか?」


 探偵は答えた。


「彼にコンビニクレーマーの顔を覚えているかと質問すると、覚えていると言ったので、似顔絵を作りました。男から指示が来たというあなたからの情報が来たので、あなたの姿を監視できるポイントを絞り込み、同業者に協力を仰ぎました。予測通り、男が現れたので、見つけた同業者に尾行して貰って、素性を突き止めることには成功しました」

「ということは、警察に捕まったってことですか?」


 俺がそう聞くと、探偵は首を横に振った。


「いえ、男の自宅を訪ねようとした矢先、彼が自宅で首を吊って死んでいるのが発見されました」


 現実感がなかった。

 脅迫者が自殺、スパイ容疑もかけられていた男が。

 サスペンスドラマではよくあるシーンだが、いざ、自分の身に起きると、現実感がない。


「口封じ、ということですか?」

「恐らく……。遺書はなく、動機も見つからなかったそうなので」


 ずっと気になっていたが、彼はどこの組織がスパイしていたのか、一言も口にしていない。

 だから聞いてみた。


「あの男は、一体、どこに雇われていたんですか?」

「核融合炉の開発競争は非常に激しいので、疑わしい企業はごまんとあります。国策も絡むので、国家機関による産業スパイの可能性もありますので。ですから一探偵に過ぎない私の身では、男が死んだ以上、そこまでのことはわかりません。知り合いの警察関係者に聞けばわかるかも知れませんが、正直、聞きたくないです。知りたくもありません」

「脅されていた研究員と彼のご家族は、無事なんですか?」

「警察の保護下に入ったので、身の危険はないと思います」


 それを聞いてほっとした。結果的に加害してしまった立場もあり、申し訳なさもあって、気になったからだった。

 探偵は俺に忠告した。


「あなたは運がよかった。もしもあの男があなたが実際に現場に行って実行したかどうかを第三者に確認させる方法を取っていた場合、彼まで辿り着けなかった可能性もあります。そうしたら私もあなたも危険な目に遭っていたかも知れません。本件は産業スパイ案件の為、深入りすれば命を落としかねません。ですので、これ以上、この件には関わらない方がいいです」


 俺自身、こんな恐ろしい案件、関わり合いになるつもりはない。

 だからつまらないことをする気はない。しかし、拾った金のことが気になっていた。


「あの、拾った金のことなんですが」


 すると探偵が表情を緩めた。


「あくまでも推測ですが、指示通りに動く駒を作るには、脅す材料が必要です。彼か、彼の所属組織は、あなたが夜に大堤公園を通るのを知っていたのでしょう。失礼ながら、事前にあなたのことを調べて生活が苦しいことを知り、金を置けば拾って着服すると予測して封筒を置いた。あそこなら夜間の人通りが少ないので、狙った人物に拾わせられます。それに赤外線カメラ機能のあるスマホで撮影すること自体、本当に偶然だったのか怪しいですしね」


 俺は納得して頷いた。


「つまり、仕組まれたものだった、ということですか。俺を駒にするための罠だった、と」

「そういうことです。あなたは、拾ったのではなく、拾わされたのです。お金も産業スパイを働こうとしていた組織か団体が用意したものだと思います。だから、あの金はもらっても問題ありません。むしろ、迷惑料として受け取るべきです」


 俺はその言葉をどう受け止めるべきか分からなかった。

 探偵事務所を後にしながら、冷たい冬の風が頬を打つのを感じた。

明日で最終回です。

21時00分投稿予定です。

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