探偵から電話がかかって来て、来週火曜日に会うことになった
翌週の木曜日、あの探偵から電話がかかってきた。
画面に映る番号を見た瞬間、鼓動が少しだけ速くなった。
探偵からの連絡は久しぶりだった。
あの不気味な電話の主からの指示が途絶えて数日が経ち、ようやく落ち着きを取り戻しつつあったものの、まだ心の底では恐怖が消えてはいなかった。
何か新たな展開があったのか――そんな不安を抱えながら通話ボタンを押した。
「全て、解決しました」
受話器の向こうから、探偵の淡々とした声が響く。
解決――その言葉を聞いても、すぐには実感が湧かなかった。
あまりにも唐突すぎた。
「本当に……?」
問い返すと、探偵は静かに続けた。
「あなたは、かなり危険なことに巻き込まれていました。しかし、もう心配する必要はありません。これ以上、あなたに危害が及ぶことはない」
そう言われても、素直に安心できるわけがなかった。
俺は、何週間も得体の知れない男に命令され続け、精神的に追い詰められた。
毎朝、電話がかかってくるのではないかと怯えながら目を覚まし、指示に従うことでしか恐怖から逃れる術がなかった。
金を拾ったというただそれだけのことが、ここまで追い詰められる事態を招くとは思いもしなかった。
「……何が起きていたんですか?」
探偵はすぐには答えなかった。わずかに間が空いた後、低い声で言った。
「知らない方がいい」
静かで、しかし断固とした口調だった。
だが、それで納得できるはずがなかった。
「冗談じゃない。俺は何週間も脅され続けて、精神的にギリギリのところまで追い詰められた。夜も眠れず、何度も何度も、もう全てを終わらせたほうが楽なんじゃないかとさえ考えた。そんな目に遭っておいて、何も知らずに済ませろって言うんですか?」
自分でも驚くほど強い口調になっていた。握りしめたスマホに汗が滲む。
受話器の向こうで、探偵はしばらく沈黙した。数秒がやけに長く感じられる。その間、俺の心臓は鼓動を速め、全身がこわばっていく。まるで、自分の知るべきでないものを求めているような気さえした。
そして、探偵は静かに息を吐き、言った。
「……それなら、来週の火曜に事務所に来てください。そのときに話します」
火曜。あと数日。
「分かりました」
それ以上は言えなかった。
電話を切ったあと、俺はしばらくその場に立ち尽くした。
終わったのか? 本当に、終わったのか?
いや、まだだ。俺は何も知らない。ただ、誰かに操られるままに動いていた。
その意味も、理由も、俺には何一つわからないままだった。
来週の火曜日――俺は、すべてを知ることになるのだろうか。
明日は21時10分投稿予定です




