指示された場所に行ったんだが、何故か男から『帰れ』と言われた……
翌週の火曜日、午前十時。
また、あの男から電話がかかってきた。
すでにこの時間帯に着信があるだけで、鼓動が早まるようになっていた。
画面に表示される知らない番号。
わざわざ登録する気にもなれない、それでいて拒否するわけにもいかない。
ため息をついて応答すると、低く抑えた声が耳に響いた。
『今からJCHO仙台病院へ行け』
短く、そして命令口調だった。
『病院に入ったら、すぐに待合で待機しろ。何をするかは、そこに着いてからまた指示する』
もはや疑問を挟む余地すら与えない言い方だった。抗うことも、問い詰めることも許されない。ただ機械的に命令を受け入れ、従うしかない。
俺はコートを羽織ると、無言で部屋を出た。
JCHO仙台病院は大通り沿いにある中規模の病院で、特に目立つ施設ではない。だが、内部に入ると、清潔な白い壁と、落ち着いた雰囲気の待合スペースが広がっていた。
淡いブルーの椅子が並び、患者や付き添い人が思い思いに座っている。
俺は一つ空いている椅子に腰を下ろし、スマホを握りしめながら周囲の様子をうかがった。
何をやらされるのか。
心臓の鼓動が、いつもより少し早い。
数分後、再び電話が鳴った。
『病院の西側の駐車場へ移動しろ』
「……駐車場?」
『車上荒らしと間違われないよう、注意しながら待機しろ』
さらに意味が分からなくなった。
「駐車場のどこにいればいい?」
『適当に』
適当に、とは何だ。
しかし、問うても意味はない。
俺は電話を切ると、病院を出て西側の駐車場へ向かった。
駐車場には様々な車が停まっていた。
中には運転手がいるものもあれば、完全に無人のものもある。
俺はできるだけ目立たぬように、南東の隅にある木のそばへ向かい、スマホを手に取った。誰かのと通話を装いながら、時折視線を動かし、周囲を窺う。
何かが起きるのか。何かを見せられるのか。
しかし……。十分ほど経った頃、再び電話が鳴った。
『もう帰っていい』
「……は?」
『帰れ』
それだけ言うと、一方的に通話が切られた。
俺はしばらくその場に立ち尽くした。
何だったのか。何をやらされていたのか。
そもそも俺は、何の目的でここに来たのか。
だが、考えても答えは出ない。考えるだけ無駄だ。
俺は静かにため息をつくと、歩き出した。
この日を境に、あの男からの指示は、ぱったりと途絶えた。
明日は 21時00分投稿予定です




