第77話 中間テストに向けて
「たしかに、テスト前に遊ぶわけにいかないわね」
「だろ。だから、テストが終わってからに……」
「待ってくださいっす! なら、予定変更っす! 三人で勉強会をしないっすか?」
「「勉強会?」」
俺と由姫がハモった。
「というか、アタシに勉強を教えて欲しいっす! 四月まるまる休んでいた時の範囲が、全然わかんないんっすよ!」
本音はそれか。
「どうする……?」
由姫がちらりとこっちを見る。
本音を言うと、俺も一人で勉強をしたい。複数人でやると集中出来ないからな。
だが、以前、カエデに休んでいた間の範囲を教えるという約束をしてしまった。
このまま見捨てるのは、少し可哀そうだ。
「わかった。じゃあ、やるか。有栖川も大丈夫か?」
「貴方がやるなら、私も参加するわ」
そんな彼女の顔には「カエデと二人にして溜まるか」という焦った気持ちがにじみ出ていた。
「で、場所はどうするんだ?」
「図書館でいいんじゃない?」
「図書館は駄目っすよ。騒ぐと怒られるので」
「勉強会で騒ぐつもりかよ。お前、やっぱり遊びたいだけだろ」
「知らないんっすか? 人間の集中力は五十分が限界と言われてるっす」
カエデはちっちっちと指を振った。
「だから、五十分勉強からの五十分遊び! これが一番効率いいんすよ!」
「遊びは五十分要らないでしょ」
由姫の冷ややかなツッコミが入った。
「そもそも図書館って、勉強するためのところじゃないからね? 本を読むところだし」
「でも、他にあるか? 学校は日曜は開いていないし……」
「デパートのフードコートとかどうっすか?」
「日曜日は親子連れで溢れるだろ。それに、席を長時間占領していたら、学園のイメージダウンになる」
「うーん。ままならないっすね」
カエデは腕組みをして、口をへの字にした。そして、しばらく悩んだあと、ポンと手を叩くと
「なら、まさやんの家はどうすか?」
と言った。
「俺の家?」
「そうっす。まさやんの家、久しぶりに行ってみたいっす。大きなテレビがあるし、パターゴルフ出来る庭もあるし……」
カエデは昔を懐かしむように、窓の外を見た。
「まさやんのお母さんが作ってくれるクッキーは美味しかったし、ゲーム機も色々あるし」
「母さんは今週末はいないし、ゲーム機も今はそんなにないぞ」
「あと、空飛ぶし」
「飛ばない飛ばない! 人の家を勝手に天空の城にするな!」
というか、なんで俺の家、前提なんだよ。
でも、由姫の家……は、あのクソ親父や優馬と顔を合わせたくないからNGだ。
カエデの家は……引っ越してきたばかりだし、上がりこむのは気が引ける。
あぁ、駄目だ。結局、俺の家しか無いじゃないか。
「まぁ、別にいいけどさ。有栖川はいいのか? 俺の家でも」
「べ、別に大丈夫……」
「じゃあ、決まりっすね! 勉強会はまさやんの家で!」
テンション高めで叫ぶカエデの後ろに隠れるようにして、由姫は
「鈴原くんの家……」
と不安と興味の入り混じった複雑そうな表情を浮かべていたのだった。