第74話 アキバデート Ⅴ
時刻は十五時。
ゲーセンを出たあと、喉が渇いたので喫茶店に行かないかという話になった。
「そういや、アキバと言えばメイド喫茶だけど」
「普通の喫茶店のほうがいい」
「了解」
「あ、でも、猫カフェがあるなら、そっちがいいかも」
「残念だけど、この辺りにはないよ」
「そ、そう」
由姫はしゅんと落ち込んだ。
「有栖川は本当に猫が好きだよな」
「なによ、悪い?」
好きじゃないと否定するかと思ったが、さすがに前回のデレっぷりを見せたからには否定は出来ないと思ったようだった。
「少し歩くけど、落ち着いた感じの喫茶店があるんだ。そこでいい?」
「ん」
俺が向かったのは、小道の中に入った中にあるアンティークな喫茶店だ。
中は個人経営で狭く、席も十ほどしかない。
店主が高齢になったせいで、未来では閉店してしまったお店だ。
「いらっしゃい」
少し腰の曲がった店主のお爺さんが、洗い物をしながらこちらを見た。
「二人ですが、入れますか?」
「えぇ。こちらにどうぞ」
お客さんは三名だけ。仕事の打ち合わせをしているサラリーマン二人と、買い物帰りで休んでいる主婦。
俺達は一番奥の二名席に案内された。
「まだ五月だけど、外は暑いな。冷房効いていると落ち着く」
「それは同意」
他愛ない会話をしながら、メニューを開く。
俺はアイスコーヒーを。由姫はレモンティーを注文した。
「そういえば、もうすぐ中間試験ね」
「だな。来週の水曜からだっけか」
中間試験か……。昔ほどではないが、憂鬱ではある。
「貴方、ちゃんと勉強してる? 小テストを見てる感じ、入学時より少し点数が落ちているみたいだけど」
「やってるにはやってるんだけどな」
入試の際は死に物狂いで勉強をしたが、今はそこそこしかやっていない。
俺は天才型ではない。全力で羽ばたくのをやめたら、降下するのは当然だ。
今では定期的に行われる小テストも由姫のほうが点数が高い。
「来月で、金色のバッジともお別れかな」
「安心しなさい。それは無いから」
「え。なんで?」
「七芒章の付け替えは、一年に一度だけだから。次の首席は来年の春に、一年間の総合成績で判定されるの」
「そうなのか?」
あれを付けていると注目されるし、さっさと他の人にあげたいんだが。
「学年の顔がコロコロ変わるのは良くないんでしょ。七芒章を持っている=学園の顔なんだから」
「学園の顔って……そんな大層なものじゃないだろ」
「ゆくゆくそうなるのよ。学校の入学案内のパンフレットの表紙になったり、インタビュー内容が載ったりするんだから」
まじでか。プレッシャー……。
俺なんかより、由姫の方を載せたほうがいいと思うけどな。受験生が二倍くらいになるんじゃないか?
「そういや、七芒学園って、なんでこんな名前なんだろ。星をイメージしていると思うんだけど、なんで五芒星や六芒星じゃないんだろうな?」
「七芒星には不可能を可能にする形っていう説があるんだって。そんな生徒が輩出されるのを願って、名付けたらしいわよ」
「へぇ、さすが物知り」
「貴方に言われると嫌味に聞こえるんだけど……。まぁ、進学先を決める時のパンフレットに書かれていただけなんだけどね」
空になったシュガースティックの袋を指先で弄りながら、由姫は俺の目をじっと見て
「そういえば、前から聞きたかったんだけど、貴方って、なんで七芒学園を選んだの?」
「それは……」
返答に困った。
お前がいるから。と言えるわけもない。
家から一番近かったから、という答えもあったが、それはスカしてるみたいでイラっとするよな。
「この辺りで、一番偏差値が高かったから。それだけだよ」
「そうなんだ」
由姫がこの学園を選んだ理由は、兄である優馬への対抗心だろう。
これは聞くまでもないな。
「中学はどこだったの?」
「荻上中学」
「荻上中……」
由姫は携帯で俺の中学を調べ始めた。
「進学校だけど、特別偏差値が高いってわけじゃないわよね……。なのによく首席で……」
「死ぬほど努力したからな……。というか、ずっと俺への質問ばっかだな」
「!」
由姫は図星を突かれたのが恥ずかしかったのか、頬を少し染めると
「勘違いしないで。どういう育ち方をしたら、貴方みたいな変な奴になるのか興味があっただけだから」
と。慌てて言った。変な奴て。
「どういう風に生きて来たかって……」
三十歳まで適当に生きて、タイムリープかましたらこうなります。
とは言えない。




