《未来》御神静香(大人の姿)Ⅳ
「そうだ。お二人は結婚式をしないつもりなんですよね? なら、代わりにここで誓いの言葉をやりませんか?」
誓いの言葉? あぁ、結婚式で神父が「永遠の愛を誓いますか?」と聞いてくるやつか。
「いやでも、新婦が爆睡しているんですけど」
「いいんですよ。きっと、この子、恥ずかしがり屋ですから。寝てるうちにさっさとやっちゃいましょう」
あれ? 誓いの言葉って、そういうものだっけ? なんか急に犯罪臭が漂い始めたんだけど。
「では始めますね」
御神さんはこほんと咳き込むと
「新郎。貴方はここにいる由姫を病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しみ、支えあうことを誓いますか?」
と言った。
「……誓います」
俺の言葉に、御神さんは満足げに頷くと、今度は由姫の前に立ち
「新婦。貴方はここにいる正修を病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しみ、支えあう事を誓いますか?」
「すぅ……すぅ……」
寝てる寝てる。
御神さんは由姫の口元に耳を当てると、ふんふんと頷き
「『誓います』と言ってます」
とグッと親指を立てた。
御神さん。真面目でシゴデキな印象だったけど、実は天然入ってるな?
「はい。それでは二人とも誓いのキスを」
「キスって……いや、寝ている時に勝手にっていうのは……ちょっと……」
「えー。普段はラブラブ夫婦なんじゃないですか?」
う……。たしかにキスは何度もしているけど、流石に人前でやる勇気は無い。
御神さんはつまらなさそうに唇を尖らせると、ちびちびとチューハイを飲みながら
「うー。なんだか、私も結婚したくなってきました。鈴原さんの会社に良い人がいたら紹介してください」
「善処しますが……うちの会社に御神さんに釣り合う人なんて、早々いませんよ。ちなみにどんな人がタイプなんですか?」
「そうですね……」
御神さんはしばらく考え込むと、俺の方を見ながらにまりと笑って
「鈴原さんみたいな人はタイプですよ」
「ははは……。ドキッとさせるの止めてください。俺のどこが良いんですか?」
「浮気をしないところです。前の彼氏は………………くすん」
あ、やべ。なんか地雷踏んだかも。
嫌な記憶を思い出したのか、御神さんは涙目になっていた。
「むにゃ……。正修さん……しゅき……」
と、由姫が急に寝言を呟いた。
「………………………………」
「………………………………」
俺と御神さんはしばらく見つめあった後、ぷっと吹き出してしまった。
「さて、この可愛い寝顔をつまみに、飲みなおしましょうか」
「そうですね。俺も明日は休みですし、もう一本飲んじゃいます。他にも由姫の過去話、沢山聞かせてください」
「任せてください。色々ありますよー。では、大学時代のお話を……」




