第68話 放課後の歓迎会 Ⅱ
「それじゃあ、次は由姫ちゃん」
「…………………………」
由姫はすぐ横のカエデを見る。こてんと首を小さく傾げて、質問を待つカエデと目を合わせ
「鈴……」
と、そこまで言って、もにょもにょと口を動かすと
「ちゅ、中学の時、塾とか家庭教師とかついていた?」
と言った。
あれ。今、質問変えた? 俺の名前が出ていたような……。
「中一の時は塾に行ってたんすけど、中々時間が合わなくて二年になる前に辞めちゃったっす。あとは全部自分で勉強っすね」
「そうなんだ。それで三位……凄いわね……」
「いやー、まだまだっすよ。この学校、授業のレベルが高くて中学校とは大違いっす。もうすぐ中間試験ですし、本気で勉強しないと」
カエデは苦笑いを浮かべながら言った。
「最後は俺か……」
まいったな。質問と言っても思い浮かばない。コイツのことは大体知っているし、知らないのは中学時代だけで、それもこの前、マッグで聞いたし……
俺が悩んでいると、副会長が俺とカエデを交互に見て
「そういえば、驚いたよね。鈴っちとカエデちゃんが幼馴染なんてさ」
「小学校が同じってだけですよ。そういうの、幼馴染って言うんですか?」
「どうなんでしょう。幼馴染の定義は小さい頃からの知り合いっていうわけですから……小学生を幼いと定義するかどうかによるのでは?」
会長はちいさく首を傾げた。
「いやいや、もっと簡単な判別方法があるって」
副会長はちっちっちと指を動かす。
「『将来、○○くんのお嫁さんになるー』って約束をしたかどうか。していたら幼馴染、してなければ、ノット幼馴染」
なんだそのトンデモ論。
「なるほど……」
カエデは小さく頷くと
「なら、幼馴染っすね」
とあっけらかんと言った。
「ごほっ! ごほっ!」
りんごジュースを飲んでいた由姫がむせた。
いや、そんな約束した覚えねぇぞ。
俺がぎょっとした顔で横を向くと、カエデがパチンとウインクをした。演技だから話を合わせろという事か。
「えー! その辺りの話、聞かせて聞かせて!」
恋バナ好きな副会長が食いついた。
「子供の頃の約束ですよ。もう覚えてないです」
「えー。薄情者だー。カエデちゃんはどうなの? 成長した鈴っちに好きって気持ちはないの?」
カエデは俺の方をちらりと見ると
「うーん……好きか嫌いかと言えば、大好きっすね」
顔をほんのり赤くしながら、照れくさそうに小声で言った。
「きゃっきゃっきゃ」
副会長は大興奮だ。はしゃぐ赤ちゃんみたいな声が出ている。
しかし、急に真顔になると
「あれ? でも鈴っちは由姫ちゃんが好きなんだよね……。カエデちゃんは鈴っちの事が好き……。それで、由姫ちゃんとカエデちゃんは生徒会の仲間……うわ! 三角関係じゃん!」
今更気づいたのか。
「すごいすごい。菅田っちがよくやってるゲームみたいな展開だ!」
「俺がやるのは純愛系だ。一緒にするな」
菅田先輩が眼鏡をくいっとしながら否定した。いや、俺も純愛なんすけど。
「うちの生徒会で昼ドラが始まる可能性があるってことかぁ……。鈴っち。お腹に雑誌入れといたほうがいいよ」
「俺が刺される前提ですか……」
「もし殺されたらアタシに任せて。現役女子高生探偵として、犯人は見つけてあげるから。真実はいつも一つ!」
どこのコ〇ン君だ。
「というか、そもそもの話、生徒会内の恋愛って、OKなんすか?」
「清い交際ならOKのつもりだったんですが……」
会長は苦笑いを浮かべながら、俺と由姫とカエデを順番に見る。
「やっぱり禁止にしたほうがいいかもね……」
「えー! つまんないよ! 恋愛禁止反対!」
「そうっす! 恋愛は自由でないといけないっす!」
ぶーぶーと不満げな顔でブーイングをする副会長とカエデ。
その横で由姫がなにやら青い顔で
「なんとかしないと……なんとかしないと……」
と小声で呟いていた。




