第65話 嘘と照れ隠し
ピロン。
翌日の朝、俺は目覚ましではなくメールの着信音で目を覚ました。
誰だ? 寝ぼけ眼で携帯の画面を確認する。
送信元に表示されていた名前は有栖川由姫。
「え!? 由姫!?」
俺は飛び起きた。
由姫の方からメールを送ってくるのは珍しい。しかも、こんな朝早くに。
何か緊急事態があったのだろうか。俺は慌ててメールを表示し、そして
「う、ううん……?」
と首を傾げた。
タイトルは
『昨日、歯医者に行ってきた』
そして、本文は
『最近、歯が痛くて、喋るのが億劫だったの。不愛想な態度を取っちゃってごめんなさい』
というものだった。
「………………………………」
なるほどなるほど。俺は何度も頷き、天井を仰いだ。
はい。嘘です。本当にありがとうございました。
タイムリープ前。
俺が虫歯になって、頬を押さえているのを見て由姫は、
「きちんと歯を磨かないから……。私なんて、虫歯になったことが一度も無いわよ」
とあきれ顔で言っていたのを覚えている。
つまり、歯医者に行ったというのも、虫歯というのも嘘だ。
何故、そんな嘘をつくのか。きっと今日のカエデの告白のせいだろう。
「俺がカエデと仲良くしているせいで、嫉妬している」というという本音を誤魔化したいが為の嘘だ。
昨日、家に帰って、必死に考えたのだろう。もしかしたら、徹夜をしたのかもしれない。こんな早朝に送ってきたのも、それなら説明がつく。
だが、その嘘を暴いたところで、幸せにはならないな。
俺はそれを信じてあげることにした。
「大丈夫か? 甘い物食べ過ぎた?」とメールを送ると
『そうかも。まぁ、そういうわけだから、今日からはまた今まで通り、よろしく』
とすぐ返信が帰ってきた。
そして、しばらくしてから
『あと、新妻さんが言っていた、私が貴方の事を好きっていう話だけど、貴方の事はあくまで信頼してるってだけだから。変な勘違いしないで』
この送信の早さ。あらかじめ、下書きに書いていたな……。
由姫の携帯でメールを打つ遅さを知っている。これだけの文字を打つなら、二分はかかるはずだ。
それに……
「信頼してる……か」
俺は苦笑いを浮かべながら、そのメールを誤って消してしまわないよう、お気に入りBOXへと送った。
「信頼してくれてるって、『好き』と同じくらいの褒め言葉なんだけどな」
こうして、ほんの少しの間の俺と由姫のすれ違い?は、終わりを告げたのだった。




