第59話 俺が好きなのはⅣ
「わかったっす。明日、有栖川さんにアタシの口からはっきりと、恋愛感情は無いって伝えるっす」
まじで? それは凄く助かるが。
「ただ、伝え方は気を付けてくれよ? 俺の事が気になってるってこと、アイツは絶対認めないからさ」
「はいっす。何気ない感じで伝えるので任せてくださいっす」
良かった。これで由姫の不機嫌は直るだろう。俺が胸を撫でおろしていると
「……………………………………………………」
カエデが腕組みをしながら、なにやら考え込んでいた。
「どうした?」
「いや、どうせならまさやんと有栖川さんがくっ付くようサポート出来ないかと考えてたっす」
「サポートって、具体的にどうするんだ?」
「生徒会の班決めで二人っきりになるように誘導したり……とか」
なるほど。たしかにそれはありがたいが……
「そこまでしなくても大丈夫だ。気持ちだけ貰っておくよ」
「ふーむ……。素直になれない……。負けず嫌い……。他の女の子といると嫉妬……」
あらら。俺の声は聞こえていないな。それだけ、彼女は集中して考え込んでいた。
「…………………………………………!」
カエデは突然顔を上げた。そして指をパチンとはじくと
「妙案を思いついたっす!」
と勢いよく立ち上がった。
「妙案?」
「はい! 有栖川さんの不機嫌も治して、かつ、二人の距離がぐっと縮まる、凄い作戦っす」
え? そんな凄い案があるのか?
カエデは食べかけのチーズバーガーをすごい勢いで食べ終えると、
「すみません、アタシ、先に帰るっす。やったことのない演技なので、明日までに練習しておきたいっす」
演技? 俺が引き留めるよりも先に彼女は鞄を背負うと、パチンとウインクをし、
「明日を楽しみに待っててくださいっす。演劇で磨いた腕、見せてあげるっすよ!」
そう言って、店を出て行った。
「嫌な予感がする……」
俺は思い出した。
カエデが小学生の頃、いたずらを思いついた時、あんな表情をしていたなと。
俺の通り道に落とし穴を掘ったり、カエルを服の中に入れてきたり。
「……いや、考え過ぎか」
それは全部小学校の頃の話だ。アイツももう大人だしな。
「さて、俺も帰るか」
しかし、この時の俺は忘れていた。
高校一年生というのは、大人に少し近づいただけの、ただの子供だということに。