第57話 俺が好きなのは Ⅱ
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突然の告白に、カエデは目をぱちくりさせた。
「ま、まじっすか?」
「まじだ。そんなに驚くところか?」
「あ、あの奥手なまさやんがストレートに『好き』って言うなんて……。これは明日、雪が降るっすよ!」
そっちかよ。
「修学旅行で好きな女子を聞かれた時も、頑なに答えようとしなかったのに」
「小学校の時の俺とは違うんだよ。つか、修学旅行、お前、別の班だったろ」
「あれ? そうでしたっけ」
「そうだよ」
さらっと記憶を捏造するな。
「それはそうと、つり合うんすか? 凄い美人さんでしたけど」
「うぐっ……つ、つりあうね! ぎりぎりつりあう!」
冷静に第三者目線で言われると、心にぐさっとくる。
つり合わないのは百も承知だ。それでも俺は彼女が好きだし。
「つーか、別につり合うつり合わないとか、関係ないだろ。本人同士が好きになれば、それで」
「まぁ、そうっすね」
学生の恋愛はかなりシビアだ。
一軍の女子は、一軍の男子と付き合うべき、みたいな暗黙の了解がある。
付き合う相手はステータスとなり、逆に明らかカーストの低い奴と付き合っていると、「なんであんな奴と?」と噂される。
大人になった今では、くだらねぇという気持ちになるが、思春期の学生はその辺りがデリケートなのだ。
オタクとギャルのカップルなんて、フィクションでしか見たことが無い。いるかもしれないが、裏でこっそりという感じなのだろう。
「あー。話がだんだん見えてきました。アタシをここに呼んだ理由。有栖川さんが近くにいる時、あんまり馴れ馴れしくしないでってことっすね」
「ま、まぁ、そうだ。すまん……」
由姫はめちゃくちゃ独占欲が強い。
未来では、俺が会長と二人きりにならないよう注意していたし、朝帰りは絶対に禁止だった。
一度、浮気を疑われた(結局、誤解だったが)時も大変だった。
ちなみに未来の由姫は、怒ったり、不機嫌になったりするのではなく、しんみり泣くタイプだった。
家に帰ったら、暗い部屋の隅にうずくまってしくしく泣いていたので、びっくりした。
そこは高校生の由姫と違う点だな。高校生の由姫は浮気すると、不機嫌になるタイプのようだ。いやまだ付き合ってないんだけど。
「ちなみに一応念のため確認だけど。お前、俺の事が好きだったりする? 小学校の時から想いを馳せてましたとか」
「いや、全然」
カエデはけろりとした顔で言った。そして、指で×マークを作ると
「というか、アタシ、事務所から高校卒業までは恋愛NGって言われてるんで」
と言った。
「え。演劇ってそうなの?」
「いや、普通は駄目じゃないんすけど、アタシは劇団でも若くて可愛いんで、アイドルみたいな側面も持ってるんす。だから、コアな男のファンも多くて」
「あー。なるほど」
たしかに。これだけ可愛ければ、ガチ恋勢も沸くよな。
「というか、好きとか付き合うとかよくわかんねーっす。アタシ、初恋もまだなんで」
「まじで?」
「マジっす。早生まれだったからっすかね?」
「さすがにこの歳になると、早生まれとか関係ないだろ」
「まさやんは初恋はいつだったんすか?」
「俺は保育園の先生だったな」
「ほぇー。残念。アタシじゃなかったんすね」
「ちげぇよ」
どこから来るんだ。その自信は。
「お前はどっちかというと、友達というより妹みたいな感じだったし」
「妹っすかー。まぁ、それはそれで大事に思っていてくれてそうなので、まぁオッケーということにしておきましょう」
カエデは腕組みをしながら、満足げに頷いた。
「ちなみにアタシも小学校の頃は、まさやんのこと、兄さんみたいに思っていたっすよ。アタシ、一人っ子なんすけど、兄がいるならこんな感じなのかなーって」
「そうだったのか」
「お兄ちゃんって呼んだ方がいいっすか?」
「やめろ。気色悪い」
俺達は顔を見合わせながら、ぷっと笑いあった。
コイツと話すのは楽しいな。女の子と話す時の緊張感が全然湧かない。
「まぁ、これからも友達として、よろしく頼むわ」
「はいっす」
俺達はマッグのジュースで乾杯した。