第53話 別れもあれば出会いもある Ⅲ
中学生か。え、中学生!?
俺が驚いたのは、中学生とは思えないほど、彼女の胸が大きかったからだ。
未来の由姫と同じ……いや、それ以上かもしれない。
癖毛気味の赤茶色のセミロング。目はややジト目気味で、垂れ眉。服装や言動にはボーイッシュさを感じるのだが、見た目は女の子っぽいという、ややアンバランスな感じのする女の子だった。
「ん……? んん……?」
と、急に彼女が目を細めながら、俺に顔を近づけてきた。
「ど、どうした……?」
なんだなんだ? 俺が戸惑っていると、彼女は
「もしかして、まさやんっすか?」
と小さく首を傾げて言った。
まさやん。
それは俺の小学校時代のあだ名だった。
「そ、そうだけど」
「わー! 本当にまさやんだ! 背が大きくなって、イケメンになってるけど、まさやんあだ! 牛乳早飲み大会でむせて、鼻から牛乳を噴射したまさやんだ!」
「おま、それ俺の黒歴史!」
間違いない。コイツ、俺と同じ宇代小学校だ。
だけど、本当に誰だ? こんな可愛い女の子、俺の小学校にいたか?
「いやー。本当に久しぶりっすね? 三年ぶりっすか?」
「あー。すまん。盛り上がってるところ申し訳ないんだけどさ……」
俺は申し訳なさそうな顔で、彼女に聞いた。
「宇代小の……誰?」
「えぇー!?」
彼女は涙目で驚いた表情を浮かべた。
ごめん。君にとっては三年前の出来事なんだろうけど、俺は十八年前の出来事なんだ。さすがに小学校のクラスメイトの顔までは覚えていない。
「アタシっすよ。カエデっす!」
「カエデ……? え!? カエデ!? お前が!?」
桜井カエデ。
俺達の学年で一番背の小さい女の子で、いつも背の順で並んだ時には一番前だった。
彼女は三月末生まれだったこともあり、色々と苦労していた。
女の子のグループに馴染めず、俺達男子のグループに加わって遊んでいた。
同級生だったが、体が小さく、良く泣く奴だったから、妹のような感じで可愛がっていた。
「まじかぁ。あの桜井が……。三年で大きくなるもんだな」
「大きくなったのはまさやんもじゃないっすか。あと、なんか目線がおっさん臭いっすよ」
やべ。胸見てたのバレたか? 俺は慌てて話題を変えようとする。
「だけど、お前、中学は大阪に行っただろ? 母親が再婚するとかで」
「そうっすよ。でも、再婚相手が東京に転勤になったんで。晴れて東京に凱旋することになったんす」
彼女は、倒れていた自転車を起こすと、邪魔にならない隅に停めた。
「たっちゃんとかまーぼーとかは元気っすか?」
「あー。別の中学になってからは殆ど会ってないや」
懐かしい名前が次々と出て、やはり彼女が俺の知っているカエデであると再認識した。
前のタイムリープでは、彼女とは小学校卒業以来、二度と会う事は出来なかった。
それがまさか、こんなところでひょっこり出会う事になるとは。
別れがあれば、出会いもある……か。
「お前、なんで中学校のジャージ着てんの? 留年した?」
「中学に留年は無いっすよ。というか、アタシが留年するとお思いで?」
「そういや、そうだったな」
勉強は俺よりも得意だったっけ。
「これは楽だから着てるだけっすよ。あと、高校の体育ジャージをまだ受け取ってないんで」
「受け取ってない? もう五月だぞ」
「あー。ちょっと色々ありまして、一か月ほど休学していたんす」
「まじか? 入院してたとか?」
「いえ。実はアタシ、演劇やっているんすよ」
「演劇? 演劇部……ってわけじゃないよな……」
「はい。一応プロっす」
「まじか。役者ってことだよな……。凄いじゃん」
「あはは。といっても、売れっ子ってわけじゃないんですけどね」
桜井は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「それで大阪で公演していたんすけど、それが三月に終わるはずが、五月まで延びちゃって。東京の学校に入学届を出した翌日に延期が決まったんすよ。もうマジふざけんなーって感じっす」
「そりゃ、災難だったな」
それにしても、あの桜井がプロの演劇役者か。
元々、感情を出しやすいところとか、底なしに明るいところとかあったし、向いていたんだろうな。
「だから、高校に行くのも来週の月曜からなんすよね。とほほ。新入生のはずなのに、転校生の気分っす」
桜井はしょぼんとした顔でうつむいた。
「まぁ、どんまい。早く友達が出来るといいな。困ったことがあったら、相談していいぞ」
「はいっす。まさやんは相変わらず優しいっすね」
桜井はぱぁと顔を明るくした。
そういや、さっきの会長からのメールを思い出した。
もうすぐ復学するという新妻という女子生徒。桜井と似たような境遇だな。
一瞬、コイツがそうなのかと思ったが、苗字が違うから別人だろう。
「そういや、桜井の家はどのあたりなんだ?」
「赤山一丁目っす。今日は新居の周りを散策するために、サイクリングしていたんすよ。前見ないと駄目っすね」
なるほど。それでぶつかりそうになったんだな。
「あ、ちょっといいすか?」
口を△の形にしながら、桜井はひょいと手を挙げた。
「桜井って苗字、呼ばれるのはすごく懐かしくて嬉しいんですけど、母親が再婚したんで、新しい苗字に変わったんすよ」
「あ、そうか。悪い。新しい苗字は何になったんだ?」
桜井はパチンとウインクをしながら
「新妻。新妻カエデっす。新婚さんみたいな苗字でちょっと恥ずかしいんで、まさやんはカエデって呼んでくれていいっすよ」
《宣伝》読者のみなさま。読んで頂き、ありがとうございます。
1月15日頃にGA文庫から書籍が発売されます。
何卒、よろしくお願いいたします。(ヾ(´・ω・`)ノヨロシクオネガイシマス(o´_ _)o)ペコッ