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第51話 別れもあれば出会いもある Ⅰ

「はい。こちらでいかがでしょうか?」


 奇麗に整えられた顎髭を蓄えたスタイリストの男が、後ろ鏡を向けながら言った。


「ありがとうございます。ばっちりっす」


「ワックスは付けていきます?」


「あー……。じゃ、軽くでお願いします」


 俺は学校帰りに蒼山にある美容院に来ていた。


「お会計、七千八百円になります」


「カード……じゃなかった。現金でお願いします」


 財布にクレジットカードが入ってないのを思い出し、俺は慌てて諭吉を取り出した。


「大人ぶりたいのかな?」と言いたげに、美容師のお姉さんが優しい笑みを浮かべていた。


 まぁ、そうだよな。それが普通の反応だ。


 誰も、目の前のこの学生が、実は三十歳だなんて思わないだろう。




 今から数か月前。俺、鈴原正修はタイムリープをした。


 三十歳だった俺は、気が付けば十五年前の冬。中学生だった時の姿になっていた。


 それから半年。俺は高校生となり、二度目の高校生活を楽しく送っていた。


 ちなみに、この店は大人の俺が愛用していた有名店だ。カット&シャンプーだけで一万円を超える。高校生にとっては中々ハードルの高い店ではある。


「ありがとうございました。またお越しくださいませー」


 美容院を出て、俺はゆっくりと体を伸ばした。


『ヴーッヴーッ』


 ジーンズのポケットに入れていたガラケーが音を立てた。


 電話だ。画面には有栖川由姫という名前が表示されている。


 彼女は俺と同じクラスメイトであり、生徒会のメンバーであり、学校一の美貌を持った美少女であり、そして


 未来では俺の嫁だった女の子だ。


「もしもし」


『有栖川だけど。貴方、会長からのメール、見た?』


「メール?」


『昨日の昼に全員に送ったけど、貴方だけ返信が無いって』


 まじか。メールは基本的にちゃんと見る派なのだが。


 ……………………………………あ!


 そういえば、昨日、『《重要》見てください《急ぎ》』みたいないかにもスパムっぽいメールが届いてて、無視したけど。もしかして、あれ、生徒会長からのメールだった!?


「ちなみにどんな内容?」


『新妻さんが来週の月曜から復学するんだって』


「新妻?」


 誰だ?

 俺が首を傾げていると、受話器の奥から呆れたため息が聞こえた。


「ほら、生徒会の最後の一人。家の都合とかで、入学前に休学することになったっていう」


「あー。思い出した、思い出した」


 一年生は三人が生徒会に入る習わしなのだが、今年は俺と由姫の二人しかいなかった。


 最後の一人は五月頃まで休学することになったと生徒会長から説明を受けた覚えがある。


『それで、初日の朝に、私達で学校を案内してあげようって会長から。八時十五分に生徒会室に集合するようにって』


「わかった。わざわざありがとうな」


 と、俺のすぐ横をマフラー車が大きな音を立てながら走っていった。


『貴方、今、外にいるの? 車の音がするけど』


「あぁ、ちょうど美容院行ってきたところ。良い感じにイケメンに仕上がってるぜ。惚れるなよ」


『じゃあ、伝えたから。切るわね』


「無視!? ボケにはツッコミをだな」


『私、関西人じゃないのよね』


「奇遇だな、俺もだ」


『そう。じゃあ、次は私がツッコミたくなるようなボケを披露してね。正直、そのまま通話を切ろうかと思ったわ』


 辛辣ぅ……。俺は苦笑いを浮かべた。


『それじゃあ、遅れないようにね』


「あぁ、了解」

 

 未来ではメロメロだった俺の嫁。だが、タイムリープしたこの時代ではご覧の有様だ。


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