《おまけ》会長の放課後
「ふぅ……。こんなものかしら」
私、御神静香は生徒会室で、ノートPCをパタンと閉じました。
時刻は十八時。
他の生徒会メンバーは既に帰っており、生徒会室には私だけ。窓の外を見ると部活を終えた生徒達が帰る準備をしていました。
私もそろそろ帰りましょうか。
……おや。ティーポットにまだ一杯分の紅茶が残っていますね。
捨てるのは勿体ないですし、飲んでしまいましょう。
冷めてしまっていたけれど、味が濃くなっていて、これはこれで美味しいですね。
紅茶を飲んでリラックスした私は、背もたれに体重を乗せ、天井を見上げました。
「やっぱり居心地が良いですね……。去年とは大違い」
そう。去年の生徒会の雰囲気は良くありませんでした。
生徒会長の有栖川優馬先輩はとても優秀でしたけど、気に入らない人は容赦なく排除しようとする方でした。
生徒会メンバーに対しては優しく振る舞うのですが、彼の本性を知っている皆は、ビクビクしながら仕事をしていました。
まぁ、仕事に関しては尊敬できるところもあったんですけどね……。
私が業務をバリバリこなせるようになったのは、優馬先輩のスパルタ指導のおかげでもあります。二度と味わいたくはありませんけどね。
なので、もし私が生徒会長になったら、皆が安心して仕事が出来るような雰囲気を作りたかった。
そのために、副会長にはムードメーカーの理沙になって貰いましたし、会計には真面目な菅田くんを推薦しました。
そう。二年生は私が信頼できる人物を集める事が出来ました。
だけど、一年生はそうはいきません。入学試験で成績の良かった人から、生徒会に入会します。
なので、どんな子達が入ってくるか不安でした。
「ですが、杞憂でしたね」
鈴原くんも由姫さんも、二人とも真面目で優秀でした。
由姫さんのほうは少し幼く、危ういところもあると感じましたけど。
実際、若葉祭の準備では上級生と揉めたって話も聞きましたし。
だけど、鈴原くんが上手くフォローしてくれました。
自己紹介の際、鈴原くんが由姫さんのことが好きだと言い放った時は、彼の方が問題児かと思いましたけど。
蓋を開けてみれば、仕事が出来て、気遣いも出来る。後輩とは思えない、ちょっと不思議な子でした。
恋心も、初めは鈴原くんの一方通行かと思っていたのですが、最近の由姫さんの様子を見ると、満更でもないような感じがします。
二人が付き合うのも時間の問題かしら? 健全なお付き合いなら全然OKなので、お二人が恋人同士になったら私も嬉しいです。
「………………」
私も恋愛とかしてみようかしら?
生徒会の任期中は、恋愛はしないと決めていたけど、三年になったら受験で手一杯になりそうなんですよね。そうなると、大学まで彼氏は無しですか……。
興味がないというわけではありませんし……。おぼこだと理沙にからかわれるのもむっとしますし。
ただ、まずは友達から始めたいんですよね……。いきなり付き合うと言うのは少し怖いです。
なのに、私に告白してくる方は、「友達から始めましょう」と言うと、それっきり話しかけてこなくなるんですよね……。私の断り方が悪いのでしょうか?
生徒会の誰かに相談してみようかしら。
とりあえず、理沙はふざけるから除外。
後輩の二人に聞くのは、少し恥ずかしいし……。
あ。菅田くんはどうかしら。嫁(許嫁?)がいるって言ってたし、意外と恋愛強者なのかも。
「………………」
まぁ、もうしばらくは独り身でいることにしましょう。中間試験が終わったら、次は林間学校もありますし。忙しくなりそうです。
「あ、そういえば……」
休学していた新妻さんという子が、来週から復学すると先ほど先生から連絡があったんでした。
いったい、どんな子なのでしょうか? 早く生徒会に馴染めるよう、サポートしてあげないといけませんね。
更にこの生徒会が更に良いものになりますように。
そんな事を願いながら私は、生徒会室の鍵を閉め、帰路についたのでした。




