《おまけ》副会長の朝
アタシの名前は、下園理沙。華の高校二年生!
趣味はカラオケと古着屋巡り。
好きな食べ物はお菓子と肉料理。
ギャルっぽい見た目をしているけど、文武両道の優等生だ。
え? 去年の期末の学年順位、下から四番目の成績だっただろって?
いや、たしかにその通りだけど、それはこの学園の生徒がヤバいだけだから!
七芒学園に入学出来る=頭が良い証拠だから!
プロ野球の二軍選手でも、一般人と比べたらすごく運動神経良いでしょ?それと同じ理屈! 決してバカじゃないから! そこんとこよろしく!
そんな美少女優等生のアタシの朝は、一杯の紅茶から始まる。
うん。嘘。全然始まらない。
「理沙! さっさと起きなさい!」
「うー。あと五分……」
母さんに布団を引っぺがされ、アタシはゆっくりと起き上がる。
昨日も夜更かしをしていたので、凄く眠い。
「また遅刻するわよ。副会長がそんなでどうするの!」
「だいじょーぶ。まだ八時でしょ。駅まで自転車飛ばせば、間に合うから」
「自転車? あんた、昨日、自転車パンクさせたでしょ。まだ直ってないわよ」
「あ」
やば! アタシは慌てて飛び起き、制服に腕を通した。
「朝ご飯は?」
「いらない!」
朝ご飯を食べる暇はない。階段を急いで駆け下り、一階の洗面所に飛び込んだ。
「うーん。やっぱ前髪は左流しにしたほうがいいか?」
洗面所では、弟の健司がワックスを付けた前髪を指でいじっていた。
「どけーい!」
弟のケツを蹴り上げ、鏡の前からどかす。
「いてーな! なにすんだよ姉ちゃん!」
「うっさい。前髪をいじいじいじいじ。ホストにでもなるつもりか」
「そんなんじゃねぇよ。姉ちゃんこそ、いつも長いんだよ。化粧したところで、ブスはブスのままだぞ」
「よし。あとで覚悟しとけ。帰ってきたら絶対殺す」
たとえ遅刻になったとしても、コスメとメイクだけは欠かせない。
「よし、完璧!」
家を飛び出し、全力で駅まで走った。お願い! 電車遅延とかしてませんように!
「セーフ!」
よかった。なんとか、電車に飛び乗ることが出来た。
学校までは電車で三駅。着くまでの間、携帯を取り出し、メールを確認する。
夜の間に来たメールは三件。秋帆と奏と絵美里からだ。
「よし。送信と。なんとか間に合った」
学園までの通学路は、生徒指導の土田がいるから携帯を出すことは出来ない。歩き携帯をしていたら、三日間の携帯没収だ。
三日間も、携帯の無い生活なんて考えられない。
だから、メールの返信は駅に着くまでの電車の中でやらないといけない。
「ふー。電車の遅延もないし、これなら遅刻は回避出来たかな」
と、学校へ向かう途中の坂道。見覚えのある男子生徒の後ろ姿が見えた。
「おっはー!」
アタシは駆け足で走ると、その背中をばちんと叩いた。
「あ。副会長。おはようございます」
眠そうな顔で振り返ったのは、学年主席の証である金バッジを付けた男子。
生徒会の後輩、鈴原くんこと鈴っちだった。
「あれれー。なんかテンション低くない?」
「いや、昨日ちょっと夜更かししまして」
「マジ!? アタシと同じだ! 友達と通話が盛り上がっちゃってさー。気づいたら三時だったの。鈴っちも電話? もしかして、有栖川ちゃんと……」
「いや、俺は単純に勉強っす。中間試験、もうすぐなんで」
「マジ返答やめい。アタシはすごく傷つきました! 鈴っち、世渡りが下手だね」
「あはは……昔、よく言われましたよ」
昔? よく言われた? 世渡り下手って、子供に対して言う言葉かな?
アタシは隣を歩きながら、欠伸をする鈴っちの横顔をまじまじと見る。
彼は少し変だ。
一見、普通の男の子に見えるけど、言葉で言い表せない違和感のようなものを抱えている感じがする。
真面目かと思ったら、たまにふざけた行動をとるし。
女慣れしてなさそうな様子なのに、どこか大人びた余裕を持っているし。
たまにユニークな言葉を当然のように使って、アタシ達がぽかんとしてると、「やべっ!」て慌てた顔をするし。
「実は宇宙人だったりして」
「? 何か言いました?」
「なんにも」
もし本当に宇宙人だったらどうしよう。それはそれで面白いからアリかなー。
アタシはそんな事を思いながら、ニシシと笑った。
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