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《未来》有栖川優真Ⅰ

「あー。美味しかった」


 タクシーから降りた由姫は、ゆっくりと体を伸ばした。


 俺達が結婚してから一か月が経過した。

 家具の用意に結婚手続きなど、会社の繁忙期も合わさって、中々二人きりの時間が取れなかった。

 今日は久々の休日ということで、二人でデートをしてきた。

 彼女と一緒に歩くと、とにかく人の視線が凄い。

 由姫の美貌はとにかく人の目を引く。俺と一緒に歩いているというのに、今日だけでモデル雑誌のスカウトが三人も話しかけてきた。

 流行りの映画を見たあと、ショッピング。夕食は行きつけのイタリアンでコース料理を食べてきた。


 ついでに、由姫がお酒に弱いことが判明した。下戸というわけではないが、ワインを二杯ほど飲んだだけで、顔が真っ赤になってしまった。

 タクシーで帰るうちに冷めたようだが、まだほんのり顔に赤みが残っている。


「楽しかったか?」


「うん」


 少し眠そうな顔で、彼女はこくりと頷いた。エレベーターに乗ると、彼女のほのかな香水の匂いが鼻をかすめた。

 ピンク色のつややかな唇。お酒のせいでとろんとした目に紅潮した頬。


「…………………………」


 可愛い。そして、色っぽい。

 同居し始めてから、一か月が経過したが、いまだに肉体的関係は持っていない。

 多忙だったせいもあるが、まだまだお互いのことを理解しきれていないからというのが大きい。

 なんせ、普通のカップルが通る道をすべてすっ飛ばして結婚したのだから。

 俺は彼女を初めて見た時から、惚れている。

 ただ、彼女の方はどうだろうか? 俺のことを好いてくれているだろうか?

 家に帰ったら、そろそろ手を出していいか聞いてみよう。そう思いながら、エレベータを降りた時だった。


「ん?」


 俺達の部屋の前に知らない男が立っていた。

 男は首を傾げながらインターフォンを押していた。


「んー。ここで合ってるはずなんだがな。留守か?」


 高そうなコートに身を包んでいる年齢は俺達と同じか、少し上。

 とにかく背が大きい。百九十くらいはあるだろうか。

 念のため、由姫を一歩後ろに下がらせると、俺は彼に話しかけた。


「あの、何か用ですか?」


「お?」


 大男はこちらを振り向くと


「やっぱり外に出かけてたのか。五年ぶり……いや、六年ぶりか?」


 と、由姫の方を見て言った。


 長髪のせいで横からは分からなかったが、ハリウッド男優のようなイケメンだった。無精ヒゲだが、不潔そうな感じは一切しない。

 堀の深い顔に、きりっとした細い眉毛。そして、彼の瞳は、由姫と同じ青色だった。


「兄……さん……?」


 由姫は震える声で、目を見開いた。

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