第108話 協力者
作戦が成功した日の夜。
自室に戻った俺は携帯電話を取り出すと、通話ボタンを押した。
今回の作戦は、色んな人の協力があってこそだった。
父さん。カエデ、菅田先輩、そして……
『で、俺の情報は役に立ったのか?』
携帯電話のスピーカーから、有栖川優馬の声が聞こえてきた。
「えぇ。かなり」
そう。最後の一押しである彼らの本名を調べる為に、彼の力を借りた。
アイツらはずっと、偽名で呼び合っていた。つまり、本名がバレるのはまずいと思っていたのだ。
なら、もしただの高校生だと思っていた奴が、全員の名前を知っていたらどうか。
唯一の手掛かりだったプレジールという名前。これが大学のサークルだと予想した俺は、優馬に連絡を取った。
年上の女が好きな彼なら、この辺の大学生の彼女の知り合いがいてもおかしくないと思ったからだ。
案の定、女子大生の知り合いは二十人以上いると自慢された。
そのツテをたどって貰ったところ、プレジールが奈藏大学の飲みサーだという事が分かった。
無論、ただで彼が動いてくれるわけが無く、そこそこの協力料は取られたが、おかげでサークルのメンバーの名前も分かった。
『ちっ。由姫の奴がうるせーな。布団ぶっ叩いてんのか?』
「え。どうかしたんですか?」
『知らね。なんか嫌な事でもあったんじゃね?』
嫌な事……? え。俺に抱き着いてきたことじゃないよね?
もしかして、俺、汗臭かった?
『そういや、この前の話だが、やっぱ俺らの想像通りだったわ。由姫の奴、親父に言ったそうだぜ。「私が兄さんに勝てるくらい優秀になったら、アリスコアを継いでいい?」って』
「ということはつまり……」
『あぁ。アリスコアの親父どもと結婚するのが嫌になったみたいだな』
「っ…………」
そうか……由姫が……。嬉しい気持ちがぶわっと湧いて来た。
タイムリープ前では絶対に起こっていない行動だ。
それを彼女自ら行おうとしてくれたのが、とても嬉しかった。
『つーか、万が一そうなったら、お前の事を義弟と呼ばないといけなくなるのか? 気持ち悪ィ』
「俺もアンタをお義兄さんと呼ぶのはごめん被ります」
『ははは。言うじゃねぇか』
優馬は上機嫌だった。そして、真剣な声に変わると
『そういや、この前約束した協力料の五万だがな。やっぱ、いらねぇ』
「え?」
『その代わり、貸し一つって事にしてくれ』
俺は苦笑いを浮かべながら。天井を見上げた。
「五万じゃ足りなかったですか? 貴方に借りを作るのは、正直ごめん被りたいのですが」
『目先の金より、お前に貸しをつけたほうが将来、得をしそうだからな』
「俺の株が大暴落しても知りませんよ」
『安心しろ。その時は俺の会社でこき使ってやるよ。アルバイトとしてな』
そう言って優馬はくくくと笑ったのだった。




