第103話 大学生VS高校生(体だけ) Ⅳ
「こんなもんか……」
深夜。自室の勉強机で、俺は手帳に書いたメモを見返した。
こちらの勝利条件は二つ。
①彼らの恐喝を終わらせる事。
②由姫の喫煙写真(偽造)をばら撒かせない事。
①は簡単だ。それこそ、警察に相談するだけで、終わらせられる。
だが、①と②を同時に解決しようとなると、その難易度は跳ね上がる。
一言で言えば、アイツらは馬鹿だ。
こんな穴だらけの恐喝を、よく自信ありげに出来るものだ。俺が何もしなくても、一年もしないうちに、全員捕まるだろう。
だが、馬鹿ほど交渉のしづらいものはない。どんな行動を取るか、読めないからだ。
「もう少し、情報が欲しいな」
翌日の昼休み。俺は四条達三人を、旧校舎の使っていない空き教室に呼んだ。
「どんな小さなことでも良い。知ってる情報を全部教えてくれ」
「……………………」
四条達は不安そうな顔で、顔を見合わせた。
「もしかしたら、お前たちを助けられるかもしれないんだ」
「ほ、本当?」
四条達から聞いた情報を、俺はメモに纏めた。
あいつらは大抵、スナック澪にたむろしている。
全員が大学生。しかし、どの大学かは分からない。
メンバーは男が三人、女が二人。
名前はレイジ・シオン・ボア・アリス・ココ。
全員が偽名で呼び合っていて、本名は分からない。
連絡は全部、捨てメールアドレスから来る。電話番号は知らない。
リーダーはレイジという茶髪ピアスの男。
「これだけか……」
「う、うん」
まいったな。思ったより情報が少ない。
「他に何かないか? 会話で引っ掛かるところとか、よく分からない単語とか」
「引っ掛かるところ……」
四条は少し考え
「そういえば、シオンさんがプレジールの飲み会がどうとか、話をしてた。今年は渋奈の店でやるとかどうとか」
プレジール? たしか、フランス語で快楽だったか?
飲み屋の名前……。いや、サークル名か?
そもそも、アイツら五人はどういう関係で集まったんだ? もし、大学のサークルだとしたら……。
恐喝……。大学生……。演技……。喫煙の写真……。サークル……。警察……。人脈……。資金……。
そして、俺達の勝利条件……。
俺の持ち得る手札と、敵の情報。それを交えて考えた結果、一つの作戦を思いついた。
「いけるかもしれない……」
「ほ、本当?」
ただ、成功する保証はない。
そのうえ、以前の若葉祭の時とは比べ物にならない下準備が必要だ。
「アイツらに恐喝を止めさせて、俺達と二度と関わらせなければ、良いんだよな」
「う、うん! でも、一体どんな……」
食いついて来た四条達を俺は手で静止すると、
「俺が一人でアイツらと交渉する。だけど、もし成功したら、この二つ約束をしろ」
彼らの前で指を二本立てた。
「一つ、喫煙をしたことを親と学校に打ち明けろ。これは絶対だ」
「だ、だけど、そうしたら退学になるんじゃ」
「退学にはならない。生徒会室の倉庫に、過去に喫煙がバレた際の反省文があったからな。一応、先生に確認も取ったが、初犯なら二週間の停学だそうだ」
「二週間……」
「騙されたとはいえ、煙草を吸ったのはお前達の意思だろう。なら、罰は受けるべきだ。きちんと反省して、学校に復帰しろ」
「わ、分かった……。もうあの人達と関わらなくていいなら、そうする」
「お、俺も」
「僕も停学で済むなら全然……」
三人はそれぞれ顔を見合わせ、頷いた。
「もう一つの条件は、来年の生徒会選挙で、有栖川を支持してくれ。出来れば、周りにも投票するように働きかけて欲しい」
「う、うん。わかった。有栖川さんを巻き込んだ罪滅ぼしとして、頑張るよ」
「お、俺も」「僕も」
よし。契約成立だ。
「だけど、どうするの? 交渉って一体……」
「簡単だ。脅しには脅しで対抗するんだよ」