表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/132

第92話 中間試験結果

「うわ。まさやん。どうしたんすか。ゾンビみたいっすよ」


 中間試験一日目の朝。

 下駄箱でカエデと会うと、彼女はぎょっとした表情を浮かべた。


「すまん。今は話しかけないでくれ。暗記した英単語が消える……」


 俺はふらふらした足取りで、教室へと向かった。


 あれから三日。殆ど寝ずに試験対策に励んだ。

 俺のアドバンテージである、テスト対策のノウハウ。こっちは周り奴らの倍、試験を受けてきているんだ。その経験を活かして、試験対策を行った。


 去年の過去問を解くだけではない。その先生の出題傾向を、今年の授業の内容と比較し、予想。

 若い体だ。体力だけは有り余っている。


「とはいえ、三徹はきついな……」


 教室に着くと、由姫はすでに自分の机で復習をしていた。

 俺が彼女の横を通ると、彼女はノートに目を落としたまま


「約束通り、本気でやってくれたのね」


 とほのかに嬉しそうな声色で言った。


「もちろん。約束だからな」


 平然としているが、彼女の目の下にはうっすらクマがあった。

 彼女も俺と同じで、追い込みをかけたようだ。


「絶対に負けないから」


 ぼそりと言った彼女の言葉を背に受けながら、俺は自分の席に着いた。


 チャイムが鳴り、先生がやってくる。


 試験用紙が配られる中、俺はゆっくりと深呼吸をした。

 さて。やれることは全てやった。


「それでは始めてください」


 先生の声と共に俺は、シャーペンを強く握りしめ、問題用紙と向かい合った。





     ***





 一学期、中間試験結果


 一位、新妻カエデ 787点

 二位、鈴原正修  786点

    有栖川由姫 786点

 四位、小城学   774点


「なんでだよ!?」「なんでよ!?」

 廊下に張り出された順位表を見て、俺と由姫は同時に叫んだのだった。




     ***




放課後の生徒会。


「いやー。ヤマ張ったのが当たったっす」


 カエデは頭を掻きながら、あっけらかんと言った。


 その横で俺は苦笑いを浮かべ、更にその横では由姫が机に突っ伏し、真っ白になっていた。


 ぶっ倒れて五分ほど経つが、ピクリとも動かない。


「これも勉強会のおかげっす。まさやん達の助力が無ければ、トップは取れなかったっす。本当にありがとうっす」


「…………………………………………」


 由姫がびくんびくんと体を痙攣し始めた。

 もうやめたげて。死体蹴りよくない。


 彼女が悔しがっているのは、ただ負けたからではない。 


 さっき、由姫の答案を見せて貰ったが、彼女の減点は全て、ケアレスミスだった。

もう少し落ち着いてテストに臨んでいたら、彼女の勝ちだったのだ。


 徹夜のせいで集中力が落ちていたのかもしれない。


「ああああああああ! なんで私はいつもこう……。肝心なところで……」


 お。再起動した。

 由姫は近くの壁に走っていくと、ガンガンと頭を打ち付け始めた。


「え。ちょっと、あれ、大丈夫っすか?」


「大丈夫。少ししたら直るから」


 そういえば、あの勉強会での約束はどうなるのだろうか?


「有栖川。例の勝負は引き分けってことでいいか?」


「…………うん。次の期末試験に持ち越しってことで。ちょっと気分悪いから、外で風に当たってくる……」


 由姫は重い足取りで、生徒会室を出て行った。


「有栖川さん、調子悪そうっすね。どうかしたんすかね?」


 何も知らないカエデは、小さく首を傾げていた。その原因が自分にあるとは微塵も思っていなさそうだ。


「はぁ……」


 あれだけ勉強を頑張ったのに、成果はゼロか。


 まぁ、いいや。思い通りにならないのも青春だ。この悔しい気持ちも、そのうちきっと大切な財産になるだろう。


 それに、試験が終わったことで見える楽しさもある。


 来月には林間学校もあるし、海にプールに夏祭りと、色んなイベントが盛り沢山だ。


「やべ……」


 水着姿や浴衣姿の由姫を想像したせいで、にやけ顔になりかけた。


 この前の由姫が風呂に入っている妄想といい、少し気持ち悪いぞ、俺。


「風呂……」


 そうだ。無事、試験は終わったものの、一つだけ気になることがまだ残っていた。


 何故、彼女があんな勝負を挑んできたかだ。


 なんでも言う事を聞くなんて、以前の彼女の口からは絶対に出ない言葉だ。


 俺の知らないところで、由姫に何か変化が起きているのだろうか?


 だとしたら、それは学校ではなく……


「一度、話をしに行くか」


 由姫があんな性格になった元凶の一つ。それはこの学園にいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ