第91話 真剣勝負
「結局、勝負をしかけてきた理由は聞きそびれたな……」
由姫とカエデが帰った後。二人の匂いがうっすらと残った自分の部屋のベッドで、俺は天井を眺めていた。
次の中間試験、俺はトップを狙うつもりは無かった。
だが、さっきの由姫の提案。もし、俺が彼女に勝ったら……
「なんでも言う事を聞いてくれる……か」
このまま何もしなければ、俺は負け、彼女の言う事を聞くことになる。
だが、負けたとしても来年の由姫の選挙の応援演説をするというだけ。俺にデメリットの一切無い美味しすぎる提案だ。
しかし、彼女は言った。「本気でやって欲しい」と。
俺に負けた事がそんなに悔しかったのだろうか。
「未来でも由姫は負けず嫌いだったよな……」
対戦ゲームで負けると、何度も「もう一回!」と不機嫌そうな顔で言う彼女の事を思い出した。
「まてよ……」
俺は起き上がり、腕を組んで考える。
中間試験で、俺が彼女に勝って、「来年、お前の選挙演説をさせてくれ」って命令をしたらどうだ?
「格好良いんじゃね……?」
ベッドから跳び上がり、指をパチンと鳴らす。
勝ってなお辱めない。それどころか、逆に彼女のお願いを聞くという男気ムーブ。
間違いない。きっとこれが最適解だ。
「問題は勝てるかどうかだな……」
俺は近くのコンビニで、栄養ドリンクを大量に買ってくると、受験勉強の際に付けていたハチマキを物置から引っ張り出し、それを額に巻き付けた。
「久しぶりに頑張ってみますか」




