第85話 俺の家に美少女が2人いる Ⅵ
「え。な、なにそれ……」
突然出てきた隠し扉のようなものに、俺は頭の中が真っ白になった。
「? 覚えてないんすか? まさやんのお父さんがわざわざ作ってくれたじゃないっすか」
父さん……?
あ、思い出した。
小学生の頃、秘密基地に憧れた俺が、父さんに頼んで隠し部屋を作って貰ったんだった。
父さんはノリノリで、俺の部屋の隣に隠し部屋を作ろうとしていたのだが、途中で母さんにバレたせいで、工事は中止。その結果、人一人がぎりぎり入れそうなスペースと、隠し扉だけが残った。
中3の頃に買ったタンスを置いた後は、一切使わなくなってしまったので、完全に忘れていた。
や、やばい。タンスを置いた時に、隠し部屋の中身は全部外に出したよな? 信じているぞ、昔の俺!
「お。なにかあるっすね。お宝発見の予感」
カエデは上半身を中に突っ込む。そして、何かを引っ張り出した。
ドサドサドサ。
三冊、古びた雑誌が床に落ちた。
それは俺が中一の夏休みに、河原で拾ったエロ本だった。
かなり昔のもののうえ、雨に打たれたせいでガビガビになっている。
緊縛系のマニアックな表紙。
未来ではもう無い、コンビニに売られているタイプのエロ本である。
「………………………………」
「ワ……」
さすがのカエデもびっくりしたのか、ち〇かわみたいな声が漏れていた。
思ったよりハードなものが出てしまって、反応に困ったのだろう。
「ま、まさやん……。三日どころか三年会わなかった間に変わってしまったっすね」
と震える声で言った。
こんなに怯えている彼女は初めて見た。
違う! 緊縛だとか、SMだとか、全然俺の性癖じゃない!
なのに、何故、昔の俺は拾ってきたのか。
それは、今と違って、昔はエロが貴重だったからだ。
昔は今ほどエロサイトも普及していなかった。変にサイトにアクセスすると、ウイルスを貰う事も多々あった。
なので、見つけたエロ本が性癖と違っていても、「まぁ、エロいし拾っとくか。もったないし」という感じで、拾ってきてしまうのだ。
おのれ。十五年前の俺。なんという地雷を残しやがったんだ。
「こ、この本は俺のじゃない! これを拾ってきたのは中学の時の俺で……」
「中学のまさやんはまさやんじゃないんすか?」
「いや、中学の俺はもう別人みたいなものだから! もう一人のボクだから!」
「どこの遊〇くんっすか」
カエデは床に落ちたエロ本の傍にしゃがみこむと
「おー……。これは中々ハードっすね……」
と表紙をめくり始めた。
「有栖川さんも見るっすよ。ほれ」
「見ないわよ! こっち向けないで!」
由姫は部屋の隅まで退避して、両手で目を覆っていた。
だがしかし、彼女の指と指の間は、少しだけ開いていた。あれ。見えてね? それ。
あぁ……。なにこの罰ゲーム。
俺は昔の俺を呪いながら、頭を抱えたのだった。