第81話 俺の家に美少女が2人いる Ⅱ
リビングにある長方形の机。
由姫は座布団の上に正座。カエデは座布団の上であぐらをかいていた。短パンで良かった。スカートならパンモロ事件だぞ。
由姫は落ち着かないのか、きょろきょろと辺りを見渡している。カエデは「おー。テレビが薄型に変わってるっす」と驚いていた。
「触っちゃ駄目なものとかあったりするっすか?」
「特にないけど。あ、親父のノートPCだけは駄目かな」
俺は立ち上がると、冷蔵庫の方へ向かった。
「二人とも、飲み物は麦茶でいいか?」
「私はなんでも」
「他に何があるっすか?」
「牛乳、珈琲、オレンジジュース、あとは麺つゆ」
「じゃあ、麺つゆロックで!」
ウイスキーロックみたいに頼むな。
俺は氷を入れたグラス二つに麦茶を注ぐと、
「へい。麺つゆロック一丁」
と、カエデと由姫の前に置いた。
カエデはコップに入れた麦茶を手に取ると、すんすんと匂いを嗅ぐと
「変な薬とかは入っていなさそうっすね」
「あれ? 俺の信用がいつの間にか消えてない?」
「この前読んだラブコメに似たような展開があったんすよ。お薬で女の子二人を眠らせて、えっちなことし放題! みたいな」
節子。それラブコメやない。エロ漫画や。
「ふざけてないで、いい加減に真面目に勉強するわよ」
由姫はため息をつきながら、机の上に教科書や参考書を広げた。
「まずは何からやる?」
「そうっすねー。やっぱり数学が一番きついっす」
「じゃあ、数学を一番最初にやりましょう」
カリカリカリと、シャーペンが走る音と、ページをめくる紙の音が静かな部屋に響く。
俺達が解いているのは、去年の中間試験で使われた過去問だ。
会長が去年の問題用紙を大事に保管していたらしく、頼んだところ、快く貸してくれた。
さすがに同じ内容は出ないだろうが、これがあれば、どんな問題を出してくるかはある程度予想できる。
「ふぅ」
一通り解き終わった俺は、ちらりと二人のほうを見る。
由姫は俺より早く解き終えたらしく、ミスが無いか見直しをしていた。カエデの方は苦戦している問題があるらしく、四苦八苦していた。
それにしても、異様な光景だ。
俺の家に美少女女子高生が二人もいる。
夢じゃないよな?
『ピピピピピピピピピ』
五十分に設定していたアラームが鳴った。時間だ。
「それじゃあ、採点しましょう」
俺はカエデのを。カエデは由姫のを。由姫は俺の解答を採点することになった。
結果は、俺は九一点。由姫は九十八点。カエデは七三点だった。
「ふぇー。全然駄目っす……」
カエデは第三席だから、俺達とほぼ同じ学力があったはずだ。
「この点数だと、トップ3どころか、百位以内にも入れないわね」
「うー……」
カエデは涙目で唇を尖らせた。
「うーん。でも、これならなんとか、なるんじゃないか?」
よく見てみると、休学していた時期に習った範囲が壊滅的なだけで、復学した後の範囲は全問正解だ。
中には基礎のほうは間違っているのに、応用の方は正解しているのもあるし。なにこれ。どうやって解いたの?
「この問題の解き方がよく分かんないっす」
「あー。四月末にやったヤツだな。これは右辺の値をこっちに持って来て……」
机の向かい側にいるカエデに説明しようとするが、彼女は眉をひそめ
「うーん。こっからだと見づらいっすね」
と言うと、机をくるりと回って、俺の横にちょこんと座った。
「うん。これで見やすいっす」
彼女の顔が急に近くなり、俺は息を飲んだ。
由姫もそうだったけど、女の子って、なんで良い匂いがするんだろうな。
由姫は石鹸を優しくしたような甘い感じの香り。
対して、カエデは柑橘系の甘酸っぱい香りがする。
「っ……」
由姫の方を見る。一見、特に気にしていないようにしているが、あれは完全に嫉妬している。
その証拠に、彼女の手に持ったシャーペンが、ミシミシと音を立てていた。このままだと折れるぞ。
さっさと終わらせなければ。俺は慌てて問題へと視線を戻した。
「え、えっと、ここは③で使った式を流用して……」
右下の問題を指差そうと、肘を曲げた時だった。
ふに。
俺の右肘がカエデの左胸に当たった。
服と下着の上からでもわかる。まるでマシュマロのような柔らかく、そして弾力のある感触だった。
カエデも気づいたのか、視線を落とす。
「おー……」
と口を△にし、少し驚いた様子だった。
「ごめ……。わざとじゃ」
「あはは。謝らなくていいっすよ。減るもんじゃないし」
とカエデは笑い流した。
そして、また俺の前にある問題用紙を見ようと、前かがみになる。
ふるんと二つの果実が揺れ動く。
「も、もう少し離れた方がいいんじゃないか? また当たったら……」
「? 別にアタシは気にしないっすよ」
俺が気にするの! あと、俺の嫁も気にするの!
「……………………………………」
しびれを切らしたのか、ついに由姫が動いた。
彼女は麦茶を一気に飲み干すと、
「す、鈴原君。お茶のお代わり貰える?」
「あ、あぁ、持ってくる」
ナイス助け船。俺は立ち上がり、キッチンへと向かった。
彼女のコップに麦茶を注いでいると、なにやら自分の胸に手を当て、悩んでいる由姫が見えた。
大丈夫。お前も将来は大きくなるから安心しろ。