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第5話 二度目の入学式

「新入生代表、鈴原正修」


「はい」


 入学式。最前列に座っていた俺は、心の中で苦笑いを浮かべながら、立ち上がった。


 なんで、俺、新入生挨拶なんてやってるんだろ……。 

 タイムリープ前の俺も、頭は良い方だった。大学も偏差値の高い国立だったし、全国模試で百番台を取ったこともある。

 しかし、あくまで秀才止まり。

 七芒学園の入試は全国の学年首席が集まる魔窟だ。

 東大、京大を目指しているレベルのやつらがゴロゴロいる。


 はじめは所詮は高校入試だろ? 我、大人ぞ? センター試験を突破した猛者ぞ?

 と余裕を決め込んでいた俺だったが、七芒学園の過去問を見て、白目を剥きそうになった。


 それから俺は本気で勉強をした。睡眠時間は四時間。センター試験で培った勉強法を活用し、受験対策をした。

 そのお陰で合格することは出来たのだが――


「首席合格は完全にやり過ぎた……」


 全力を出した結果、一位で合格してしまったのだ。

 しかし、これは目立つなぁ……。

 俺の胸につけられた、黄金の七芒星の形をしたバッジがキラリと光った。


 七芒章。学力至上主義をうたう七芒学園は、首席、次席、三席には、それぞれ金、銀、銅のバッジが与えられるらしい。

 これを付けている生徒は学食が無料。参考書を学校の経費で買って貰えるなど、様々な恩恵を受けられるそうだ。


 進級試験のたびに、七芒章は付け替えられる。入学試験でトップだった俺は、一年首席ということになっているらしい。

 目立ちたくは無かったのだが、来年までの我慢だ。


「ほう。彼が今年の首席か」


 と、壇上に向かう際、来賓の中年男が二人、俺を品定めするような目でひそひそと話していることに気づいた。


「眼鏡をしてないねぇ。私の時はみんな目が悪くなるまで勉強をしたよ」


「年々、レベルも落ちてきてるらしいしねぇ。これも少子化のせいかね」


「少子化もあるが、なにより最近の若者はガッツが足らんよ。ガッツが」


 んだてめぇら。昭和生まれの親父がよぉ。

 俺がどれだけ苦労して合格したと思ってんだ。勉強し過ぎたせいで、しっかりコンタクトだよこの野郎。


 無難にこなそうと思っていたが、少し驚かせてやるか。

 壇上に立った俺はこほんと咳き込むと、持ってきたカンペを取り出すことなく話し始めた。


「本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき、誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます」


 そして、俺は左端に来賓達を向くと


「また、お忙しい中ご臨席いただきました、ご来賓の皆様に厚くお礼を申し上げます」


 と言い、深々とおじぎをした。


「長い歴史があり、由緒正しいこの学園の第六十九期生として、入学の日を迎えられたことを大変嬉しく思います」


 今度は右にいる教師達のほうを見る。


「これから私達は七芒学園の生徒として、責任ある行動を心掛けていきます。学友と共に自己研鑽に励み、夢に向かって努力をする所存です。校長先生をはじめ、先生方、先輩方、どうか温かいご指導をよろしくお願いいたします。以上を持ちまして、新入生代表挨拶とさせていただきます」


 俺は最後にもう一度、九十度のお辞儀をした。


 シンと静寂が訪れた後、まばらな拍手が始まり、そして会場全体が拍手で埋め尽くされた。


「すっげぇ……」


「まじで俺達と同じ高一かよ……」


 淀みなく、カンペも無しに喋り切った俺に、全員が驚いていた。俺の悪口を言っていた来賓の男達も、口をぽかんと開けている。


 株主総会での社長挨拶に比べたら、全然プレッシャーを感じなかった。まぁ、失敗してもペナルティゼロなんだから当然か。


「!」


 壇上から降りる時、二列目に座っている俺の嫁と目が合った。


 有栖川由姫。


 彼女の胸には銀の七芒章がつけられていた。つまり、彼女は次席合格していたのだ。


 さすが俺の嫁! と一瞬思ったが、あれ? ということは、タイムリープ前は彼女が首席……。つまり、本来、彼女がやるはずだった新入生挨拶を奪う形になってしまったのか?


「次は負けないから」


 彼女の横を通り過ぎる際、彼女がぼそりと呟いた気がした。

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